Canonの手ブレ補正を徹底解説|IS・IBIS・協調制御の仕組みと撮影シーン別の使い方
手ブレ補正は、暗所や望遠、マクロ撮影などでカメラの揺れを抑え、撮影できる範囲を広げる重要な機能です。Canonではレンズ内ISに加え、EOS Rシリーズの一部でボディー内手ブレ補正IBISを採用しています。本記事では、ISとIBISの違い、協調制御、補正段数の考え方、三脚や流し撮り、動画での使い方、被写体ブレとの違いまで詳しく解説します。
手ブレ補正とは何か
撮影中に起きるカメラの揺れを打ち消す仕組み
手ブレ補正は、シャッターが開いている間にカメラがわずかに動くことで発生する画像のブレを抑える機能です。キヤノンではレンズ内の光学式手ブレ補正を「IS(Image Stabilizer)」と呼び、EOS Rシリーズの一部では撮像素子を動かすボディー内手ブレ補正も採用されています。
明るい屋外で1/1000秒のような高速シャッターを使っているときは、わずかなカメラの動きが写真へ表れにくいため、手ブレ補正の効果を意識する場面は多くありません。
一方、夕方や室内、夜景などで1/30秒、1/15秒、1/8秒とシャッタースピードが遅くなると、シャッターが開いている間のカメラの動きが写真へ記録されやすくなります。こうした場面で手ブレ補正が効果を発揮します。
手ブレとシャッタースピードの関係については、Canonカメラのシャッタースピード設定と手ブレを防ぐ方法でも詳しく解説しています。
手ブレと被写体ブレは別の現象
写真がぶれていると、すべてを「手ブレ」と考えてしまいがちですが、手ブレと被写体ブレは原因が異なります。
手ブレは、撮影者やカメラが動くことで発生します。静止している建物や背景まで同じ方向へぶれている場合は、手ブレが原因である可能性が高くなります。
被写体ブレは、シャッターが開いている間に人物、動物、鳥、車など被写体自身が動くことで発生します。カメラを三脚へ完全に固定していても、1/10秒で歩いている人物を撮れば人物はぶれます。
手ブレ補正が抑えるのは基本的にカメラ側の揺れです。人物や動物の動きを止めるには、被写体に合わせたシャッタースピードが必要です。
動く被写体を止めるための設定については、動体撮影のシャッタースピードとAF設定で詳しく紹介しています。
望遠レンズほど手ブレが目立ちやすい
手ブレは焦点距離が長くなるほど目立ちやすくなります。
24mmの広角レンズではわずかなカメラの動きが画面上では小さく見えますが、400mmや500mmでは同じ角度だけカメラが動いても、ファインダー内の被写体が大きく移動します。
望遠レンズを構えたときに、肉眼では静止しているはずの被写体がファインダー内で細かく動いて見えるのはこのためです。
そのため望遠撮影では、手ブレ補正だけでなくシャッタースピードも重要になります。被写体が静止していても、焦点距離が長いほど速めのシャッターを使った方が安定しやすくなります。
望遠レンズの焦点距離と撮影方法については、キヤノン200mm望遠レンズの特徴と使い方でも紹介しています。
レンズ内手ブレ補正ISの仕組み
レンズ内部の補正光学系を動かしてブレを打ち消す
キヤノンのIS搭載レンズでは、レンズ内部にある補正用の光学系を動かすことで手ブレを抑えます。
カメラがわずかに上下左右へ傾くと、その動きを検出し、光が撮像面上でずれない方向へ補正光学系を動かします。撮影者が完全に静止するのではなく、カメラが動いた分を光学系側で打ち消す仕組みです。
望遠レンズではファインダー像そのものが大きく揺れやすいため、レンズ内ISが作動すると構図を決めやすくなる利点もあります。
例えば鳥を望遠レンズで追っているとき、補正なしではファインダー内で被写体が細かく揺れます。ISが働くことで像が安定し、被写体を画面内へ維持しやすくなります。
望遠レンズを含むEFレンズについては、Canon EFレンズ総合ガイドから焦点距離別に確認できます。
レンズごとに補正効果は異なる
「IS付きレンズならすべて同じだけ補正できる」というわけではありません。
レンズが登場した年代、焦点距離、補正機構によって手ブレ補正の効果は異なります。古いEFレンズでは2段や3段程度のモデルもあり、新しいRFレンズでは5段以上の補正効果を持つものもあります。
さらにボディー内手ブレ補正を搭載するEOS Rシリーズと対応RFレンズを組み合わせることで、レンズ内ISとボディー内ISを協調して制御する機種もあります。
そのため「キヤノンのISは何段」と一つの数値で表すことはできません。使用するボディとレンズの組み合わせごとに補正効果を考える必要があります。
EFレンズをEOS Rシリーズで使用する方法については、EOS RシリーズでEFレンズを使う方法でも詳しく解説しています。
補正段数はシャッタースピード何段分かを表す
手ブレ補正では「4段」「5段」「8段」といった表現が使われます。
1段はシャッタースピードで考えると2倍の時間に相当します。例えば1/125秒から1段遅くすると約1/60秒、さらに1段で約1/30秒、1/15秒、1/8秒となります。
4段分の補正効果という場合、条件が整えば補正なしの場合より4段遅いシャッタースピードでも手ブレを抑えられることを示しています。
これは「必ずその速度で撮れる」という保証ではありません。焦点距離、構え方、撮影者、撮影倍率、カメラの画素数などでも結果は変わります。
シャッタースピードの1段という考え方については、シャッタースピードの基本と設定方法で詳しく解説しています。
ボディー内手ブレ補正IBISの仕組み
撮像素子そのものを動かしてブレを補正する
ボディー内手ブレ補正は、レンズではなくカメラ内部の撮像素子を動かして手ブレを抑える方式です。一般にIBISと呼ばれます。
カメラが動いた方向とは反対方向へ撮像素子を移動させることで、光が当たる位置のずれを補正します。
大きな特徴は、レンズ側に手ブレ補正機構がなくてもボディ側で補正できることです。
例えばISを搭載していない単焦点レンズでも、対応するEOS Rボディとの組み合わせでボディー内手ブレ補正を利用できます。古いEFレンズをマウントアダプター経由で使用する場合にも、組み合わせによってボディ側の補正を利用できます。
EFレンズをEOS Rシリーズへ装着するときの仕組みについては、EF-EOS Rマウントアダプターの特徴でも紹介しています。
5軸補正は複数方向の揺れに対応する
ボディー内手ブレ補正では「5軸補正」という言葉が使われます。
カメラの揺れは単純な上下左右だけではありません。上下方向への角度ブレ、左右方向への角度ブレ、回転方向のブレ、上下の平行移動、左右の平行移動などがあります。
5軸手ブレ補正では、こうした複数方向の動きを検出して補正します。
特に回転方向のブレは、レンズ内の補正光学系だけでは対応が難しい領域です。撮像素子自体を動かせるボディー内手ブレ補正には、こうした方向の揺れへ対応できる利点があります。
カメラの基本設定や撮影方法については、写真撮影の基本テクニックとカメラ設定でも詳しく紹介しています。
IS非搭載レンズでも補正を利用できる
ボディー内手ブレ補正を搭載したカメラでは、ISを持たないレンズでも補正を利用できることがあります。
これは大口径単焦点レンズとの組み合わせで特に便利です。明るい単焦点レンズはF1.2、F1.4、F1.8などの大口径を持つ一方、レンズ内ISを搭載していない製品も多数あります。
明るいレンズとボディー内手ブレ補正を組み合わせれば、暗い場所で絞りを開き、さらにカメラの揺れも抑えることができます。
古いEF単焦点レンズをEOS Rシリーズへ装着する場合にも、レンズそのものの描写を残しながら新しいボディ側の機能を利用できる場合があります。
EF単焦点レンズの種類については、Canon EFレンズ完全ガイドから確認できます。
レンズ内ISとボディー内ISの協調制御
二つの補正機構を組み合わせて使う
ボディー内手ブレ補正を搭載したEOS Rシリーズの一部では、対応するRFレンズのレンズ内ISとボディー内ISを協調させて補正します。
レンズ側とカメラ側が互いに独立して勝手に動くのではなく、カメラとレンズ間で情報をやり取りし、それぞれが適した補正を担当します。
望遠側ではレンズ内ISが効果を発揮しやすく、回転方向などではボディー内ISが力を発揮します。それぞれの特徴を利用して総合的に手ブレを抑える仕組みです。
対応するボディとRFレンズの組み合わせでは非常に大きな補正効果を得られるものがありますが、補正段数はすべての組み合わせで同じではありません。
EOS Rシリーズとレンズの組み合わせについては、EOS Rシリーズでレンズを使い分ける方法でも紹介しています。
最大補正段数だけで性能を判断しない
手ブレ補正性能を見るときは「最大8段」のような数字が目立ちます。しかし、その数字だけを見てカメラやレンズを判断するのは適切ではありません。
補正段数は特定のカメラ、レンズ、焦点距離、測定条件によって得られた値です。別の焦点距離やレンズでは補正効果が変わります。
また、8段分の補正があっても歩いている人物を1秒で止められるわけではありません。静止した風景や建物を手持ちで撮る能力と、動く人物を止める能力は別です。
撮影では補正段数だけを見るより、「どの焦点距離で何を撮るのか」を先に考えた方が実用的です。
人物や動物を撮影するときのシャッタースピードについては、動体撮影の設定とシャッタースピードの決め方で詳しく解説しています。
EFレンズでもボディー内補正を利用できる
EOS Rシリーズへマウントアダプターを介してEFレンズを装着した場合でも、ボディー内手ブレ補正を搭載する機種では、その機能を利用できる組み合わせがあります。
そのため、ISを搭載していない古いEF単焦点レンズでも、EOS一眼レフで使用していたときとは異なる撮影環境を作れます。
例えばEF85mm F1.2L II USMやEF135mm F2L USMのようなレンズにはレンズ内ISがありません。ボディー内手ブレ補正を持つEOS Rシリーズへ装着すれば、レンズ本来の焦点距離やF値を維持したまま、ボディ側の補正を利用できます。
EFレンズをEOS Rへ移行して活用する方法は、EOS RでEFレンズを使う完全ガイドで詳しく紹介しています。
マクロ撮影では手ブレの性質が変わる
接写ではシフトブレの影響が大きくなる
通常の撮影距離では、カメラが上下左右へ傾く角度ブレが大きな問題になります。
ところがマクロ撮影で被写体へ近づくと、カメラが上下左右へ平行移動するシフトブレの影響も大きくなります。
EF100mm F2.8L マクロ IS USMでは、この接写時のシフトブレも考慮したハイブリッドISを採用しています。
等倍撮影では、撮影者が数ミリ動くだけでも構図やピント位置が大きく変化します。そのため通常撮影より高度な補正が必要になります。
100mmマクロとハイブリッドISについては、EF100mm F2.8L マクロ IS USM完全ガイドで詳しく紹介しています。
手ブレ補正だけではピントの前後移動を解決できない
マクロ撮影では、上下左右の手ブレだけでなく、撮影者が被写体へ近づいたり離れたりする前後方向の動きも問題になります。
等倍付近では被写界深度が極めて浅いため、数ミリ前後するだけで狙った場所からピントが外れることがあります。
この場合、一般的な手ブレ補正だけで完全に解決することはできません。体を安定させ、必要なシャッタースピードを確保し、場合によってはMFで撮影倍率を固定してカメラ自体を前後させながらピントを合わせます。
マクロ撮影では「ISがあるから低速シャッターで大丈夫」と考えるより、撮影倍率が高くなるほどカメラと被写体の両方の動きが大きく影響すると考える方が分かりやすくなります。
被写界深度とF値については、F値とボケ・被写界深度の関係でも詳しく解説しています。
手ブレ補正が特に役立つ撮影シーン
夕方や室内で静止した被写体を撮る
手ブレ補正が最も分かりやすく役立つのは、光量が少なく、被写体が静止している場面です。
夕方の街並み、室内の家具、美術品、建物、静物などでは、シャッタースピードを多少遅くしても被写体ブレが起きにくいため、手ブレ補正の能力をそのまま利用できます。
例えば補正なしでは1/60秒を使いたい状況でも、手ブレ補正があれば1/30秒や1/15秒へ落として撮影できる可能性があります。その分ISO感度を下げたり、絞りを絞ったりできます。
低照度でISO感度を上げる方法については、高感度撮影とISO感度の使い方で詳しく紹介しています。
夜景を三脚なしで撮影する
夜景は手ブレ補正の効果を生かしやすい被写体です。
建物や街灯は基本的に動かないため、手ブレさえ抑えられればかなり遅いシャッタースピードを使用できます。
強力な手ブレ補正を持つカメラとレンズなら、三脚を設置しにくい場所でも手持ちで夜景を狙える範囲が広がります。
ISO感度をむやみに上げず、1/15秒、1/8秒などへシャッタースピードを落とすことで、低感度を維持しながら撮影できる場合があります。
一方、車や人を止めたい場合は、その動きに合わせたシャッタースピードが必要です。夜景全体は静止していても、動くものだけが流れる写真になる場合があります。
露出とISO感度の関係については、ISO感度と露出の基本で詳しく紹介しています。
望遠レンズで構図を安定させる
望遠レンズでは、手ブレ補正は撮影結果だけでなく構図を決める段階でも役立ちます。
400mmや500mmで小さな鳥を画面内へ入れると、わずかな手の動きでも被写体が大きく移動します。ファインダー像が揺れていると、AFポイントを鳥へ重ね続けることも難しくなります。
ISによってファインダー像が安定すると、被写体を追いやすくなり、構図やAFにも集中しやすくなります。
高速シャッターを使っているからISが不要と単純には言い切れない理由の一つが、望遠撮影時のファインダー像の安定です。
望遠撮影で動く被写体を追う方法については、動体撮影のAFと連写設定でも詳しく解説しています。
風景撮影で絞りを維持する
風景撮影では、被写界深度を確保するためF8やF11などへ絞ることがあります。
絞るとレンズへ入る光が減るため、ISO感度を固定している場合はシャッタースピードが遅くなります。三脚を使わない撮影では、そこで手ブレ補正が役立ちます。
例えばF8を維持したままシャッタースピードだけを遅くできれば、ISO感度を上げずに撮影できます。
旅行や登山などで三脚を持たずに歩く場合にも、手ブレ補正が強いカメラやレンズは撮影の自由度を広げます。
屋外撮影で自然光を利用する設定については、屋外撮影で自然光を生かす設定と撮影方法で紹介しています。
手ブレ補正があっても高速シャッターが必要な場面
人物撮影では表情や体の動きがある
人物は静止しているように見えても完全には止まっていません。
呼吸、まばたき、表情、髪の動き、姿勢の変化などがあります。手ブレ補正によって1/8秒でカメラを安定させられたとしても、人物自身が動けば写真はぶれます。
ポートレートでは、静止した人物でも1/125秒や1/250秒程度から考え、動きがある場合はさらに速いシャッタースピードを使う方が安定します。
大口径レンズなら絞りを開けることで光量を確保できるため、手ブレ補正と高速シャッターを別々に考えることが重要です。
人物撮影に使う焦点距離やレンズについては、Canonポートレートレンズ完全ガイドで詳しく紹介しています。
スポーツや野鳥では被写体ブレが中心になる
スポーツや飛んでいる鳥では、カメラの揺れより被写体自身の高速な動きが大きな問題になります。
こうした撮影では1/1000秒、1/1600秒、1/2000秒などの高速シャッターを使用することがあります。
高速シャッターを使えば手ブレも発生しにくくなりますが、望遠レンズではファインダー像を安定させる意味でISが役立ちます。
つまりスポーツや野鳥では、手ブレ補正だけでシャッタースピードを遅くするのではなく、高速シャッターとISを組み合わせて使うことになります。
スポーツや野鳥撮影のシャッタースピードについては、動体撮影の基本と実践テクニックで詳しく紹介しています。
手ブレ補正とシャッタースピードの決め方
焦点距離分の1秒は出発点として使える
手持ち撮影では昔から、シャッタースピードを「焦点距離分の1秒」より速くするという考え方があります。
50mmなら1/50秒前後、100mmなら1/100秒前後、200mmなら1/200秒前後という考え方です。
現在は高画素カメラや強力な手ブレ補正があるため、この基準だけで決める必要はありません。それでも補正効果を考える出発点としては分かりやすい基準です。
例えば100mmで1/125秒を基準とし、実際に1/30秒まで安定して撮れるなら、手ブレ補正によって撮影できる範囲が広がったことを実感できます。
シャッタースピードの決め方については、Canonカメラのシャッタースピード設定ガイドで詳しく解説しています。
高画素カメラでは小さなブレも確認しやすい
高画素カメラでは、同じ大きさのセンサーへより多くの画素が配置されています。
そのため写真を等倍表示すると、従来なら気にならなかった小さなブレまで確認しやすくなります。
手ブレ補正があるからシャッタースピードを極端に遅くするのではなく、必要な解像感に応じて速度を選ぶことが重要です。
特に細かな羽毛、髪、建築物の模様などを高解像で残したい場合には、手ブレ補正を利用しながら少し余裕を持ったシャッタースピードを選ぶ方法があります。
ISO感度を上げてシャッタースピードを確保する考え方は、高感度撮影と画質の考え方でも詳しく紹介しています。
三脚使用時の手ブレ補正
三脚なら必ずISをOFFにするとは限らない
以前は「三脚を使うときは手ブレ補正をOFFにする」という説明が一般的でした。
現在はレンズやカメラによって動作が異なります。三脚使用を検知して補正動作を制御する製品もあり、三脚を使ったから必ずISを切らなければならないとは限りません。
長時間露光、望遠撮影、流し撮りなどでも動作はレンズによって異なります。そのため、使用するレンズの仕様に合わせて設定する方法が確実です。
一方、完全に固定した状態で手ブレ補正を必要としない撮影なら、ISを使う理由も少なくなります。
シャッタースピードと長時間露光については、シャッタースピード設定と長時間露光の基本で詳しく紹介しています。
一脚では手ブレ補正が役立つ場面が多い
一脚は上下方向の重量を支えられますが、カメラを完全には固定しません。
左右方向や回転方向には撮影者と一緒に動くため、手ブレ補正を利用できる場面が多くあります。
スポーツや野鳥では大きな望遠レンズの重量を一脚で支えながら、ISで細かな揺れを抑える使い方ができます。
三脚のように構図を完全固定する機材と、一脚のように動きながら支える機材では、手ブレ補正の役割も異なります。
望遠で動く被写体を撮影する方法については、動体撮影のカメラ設定と撮影方法で詳しく解説しています。
流し撮りと手ブレ補正
流し撮りでは意図的にカメラを動かす
流し撮りでは、走る車や自転車などに合わせてカメラを横方向へ動かします。
通常の手ブレ補正ではカメラの動きを抑えようとしますが、流し撮りでは撮影者が意図的に動かしているため、通常撮影とは状況が異なります。
一部の望遠レンズには流し撮りへ対応したISモードがあり、一定方向への大きな動きは流し撮りとして認識し、それ以外の揺れを補正します。
これによって横方向へカメラを振りながら、上下方向などの不要な揺れを抑えやすくなります。
流し撮りのシャッタースピードについては、シャッタースピードを使った流し撮りの基本でも詳しく紹介しています。
流し撮りでは低速シャッターと補正を組み合わせる
流し撮りでは1/1000秒で被写体を完全に止めるのではなく、1/125秒、1/60秒、1/30秒など比較的遅いシャッタースピードを使います。
被写体と同じ速度でカメラを動かせれば、被写体は比較的鮮明に残り、背景だけが横方向へ流れます。
シャッタースピードを遅くするほど背景の流れは大きくなりますが、カメラの上下方向の揺れも目立ちやすくなります。流し撮り対応のISは、この不要な揺れを抑えるために利用できます。
高速シャッターとは反対に、手ブレ補正を利用しながら意図的に遅いシャッタースピードを使う撮影方法です。
動きを止める撮影と流す撮影の違いは、動体撮影の実践テクニックでも詳しく紹介しています。
動画撮影の手ブレ補正
静止画と動画では求められる補正が異なる
静止画ではシャッターを切った一瞬だけブレを抑えればよいのに対し、動画では撮影している間ずっと画面を安定させる必要があります。
そのため動画では、レンズ内IS、ボディー内手ブレ補正、動画電子ISなど複数の方法が利用されます。
歩きながらの撮影では大きな上下動が発生するため、静止した状態での手ブレ補正とは条件が大きく異なります。
動画では「一枚がぶれているか」ではなく、映像全体がどのように揺れているかが見え方を左右します。
EOS Rシリーズの動画撮影とEFレンズの利用については、EOS RシリーズでEFレンズを活用する方法でも紹介しています。
動画電子ISは画面を切り出して揺れを補正する
動画電子ISは、光学系や撮像素子だけを動かす方法とは異なり、映像の記録範囲に余裕を持たせ、その中から揺れを打ち消す方向へ使用範囲を移動させる方法です。
そのため、動画電子ISを有効にすると画角が少し狭くなる場合があります。
レンズ内ISやボディー内手ブレ補正と動画電子ISを組み合わせられるカメラでは、複数の補正を使って動画の揺れを抑えます。
三脚へ完全固定した映像、手持ちで立って撮る映像、歩きながら撮る映像では必要な補正量が異なるため、撮影方法によって使い分けることが重要です。
焦点距離と画角の違いについては、焦点距離と画角の変化を解説した記事でも詳しく紹介しています。
手ブレ補正に頼りすぎない撮影方法
カメラの構え方だけでも結果は変わる
手ブレ補正が強力になっても、カメラの構え方は重要です。
右手だけでカメラを支えるのではなく、左手でレンズの下を支え、脇を軽く締めることでカメラ全体を安定させられます。
立った状態なら足を少し開き、壁や柱があれば体を預ける方法も使えます。シャッターを強く押し込むのではなく、構えを崩さず静かに操作することも重要です。
こうした基本と手ブレ補正を組み合わせることで、補正機能だけに頼るより低速シャッターでの成功率を高められます。
撮影姿勢を含む写真の基本については、写真撮影の基本テクニックでも詳しく紹介しています。
連写すると安定した一枚を得られることがある
低速シャッターで手持ち撮影するときは、一枚だけ撮るより数枚連写した方が鮮明な写真を得られる場合があります。
撮影者の体は常にわずかに動いているため、連写したすべてのコマが同じ量だけぶれるわけではありません。
数枚の中に、たまたまカメラの動きが最小になった瞬間の写真が含まれることがあります。
手ブレ補正と連写を組み合わせれば、夜景や静物などで低速シャッターを使うときの成功率を高められます。
Canonカメラの連写については、高速連写と連続撮影の使い方で詳しく紹介しています。
必要ならISO感度を上げてシャッタースピードを確保する
手ブレ補正があると、どうしてもシャッタースピードを遅くしてISO感度を下げたくなります。
静止した建物や風景なら有効ですが、人物や動物を撮る場合は被写体ブレが発生するため、ISO感度を上げてでもシャッタースピードを確保した方がよい場合があります。
現在のデジタルカメラでは高感度性能も向上しているため、ISO100へ固定することだけが高画質につながるとは限りません。
多少ISO感度を上げても、必要なシャッタースピードを確保して細部を鮮明に写した方が結果として使いやすい写真になることがあります。
ISO感度を上げる基準については、高感度撮影でISO感度を使いこなす方法で詳しく解説しています。
手ブレ補正の有無だけでレンズを選ぶ必要はない
明るい単焦点レンズにはIS非搭載モデルも多い
手ブレ補正は便利な機能ですが、レンズ選びですべてを決める要素ではありません。
EF85mm F1.2L II USMやEF135mm F2L USMなど、レンズ内ISを搭載していなくても大口径と独自の描写を持つレンズがあります。
F1.2やF2まで開けられるレンズなら、F4のレンズより速いシャッタースピードを確保できます。被写体が動く場面では、手ブレ補正より大口径の方が役立つ場合もあります。
EOS Rシリーズのボディー内手ブレ補正を利用すれば、IS非搭載EFレンズを新しい環境で使う方法もあります。
大口径EFレンズについては、Canon EFレンズ総合ガイドから確認できます。
撮影対象によって必要な機能は変わる
風景や夜景を手持ちで撮るなら、強力な手ブレ補正は大きな利点です。
スポーツや野鳥では高速シャッターを多用するため、手ブレ補正以上にAF速度、焦点距離、開放F値などが重要になる場合があります。
ポートレートでは大口径による背景ボケを優先することもあり、マクロでは接写時の補正方式が重要になります。
つまり「ISありだから優秀」「ISなしだから不便」という単純な比較ではなく、そのレンズを何に使うのかによって価値が変わります。
焦点距離と撮影用途からレンズを選ぶ方法については、Canonポートレートレンズの選び方でも具体的に紹介しています。
手ブレした写真を見分ける方法
背景まで同じ方向へ流れていれば手ブレを疑う
撮影後に写真がぼやけていた場合は、まずどこがぶれているのかを確認します。
人物だけでなく背景、建物、文字など画面全体が同じ方向へ流れていれば、カメラ自体が動いた可能性があります。
この場合はシャッタースピードを上げる、ISを有効にする、構えを安定させるといった方法が有効です。
人物だけがぶれて背景が鮮明なら、原因は手ブレではなく被写体ブレである可能性が高くなります。その場合は手ブレ補正を強くするより、シャッタースピードを上げます。
シャッタースピードによるブレの違いについては、Canonカメラのシャッタースピード設定ガイドで詳しく紹介しています。
拡大表示で細部を見る
カメラの背面モニターでは鮮明に見えていても、パソコンで拡大すると細かなブレが見える場合があります。
撮影現場で重要な写真を確認するときは、画像を拡大し、文字、瞳、髪、建物の輪郭など細かな部分を確認すると判断しやすくなります。
特に高画素カメラでは、小さな画面では分からない微細なブレまで記録されています。
同じ構図をシャッタースピードだけ変えて数枚撮り、後から比較すると、自分がどの程度の低速シャッターまで安定して撮影できるのかも分かります。
写真撮影の基本設定をまとめて確認する場合は、静止画撮影の基本テクニックも参考になります。
まとめ
手ブレ補正は、撮影中に発生するカメラの揺れを抑え、低速シャッターや望遠撮影でも鮮明な写真を得やすくする機能です。
キヤノンではレンズ内部の光学系を動かすISが長く使われてきました。EOS Rシリーズの一部では撮像素子を動かすボディー内5軸手ブレ補正も搭載され、対応RFレンズではレンズ内ISとの協調制御も行われます。
レンズ内ISは望遠撮影での補正やファインダー像の安定に強みがあり、ボディー内手ブレ補正はISを持たないレンズでも利用できることや、複数方向の揺れへ対応できることが特徴です。
一方、手ブレ補正で人物、動物、鳥、自動車などの動きを止めることはできません。被写体ブレを防ぐには、その動きに合わせたシャッタースピードが必要です。
静止した夜景なら手ブレ補正を生かしてシャッタースピードを遅くし、ISO感度を抑えることができます。スポーツや野鳥なら高速シャッターを使いながら、望遠レンズのファインダー像を安定させる目的でISを利用できます。マクロでは通常撮影とは異なるシフトブレも考える必要があります。
手ブレ補正は、シャッタースピードを考えなくてもよくなる機能ではありません。シャッタースピード、焦点距離、被写体の動き、撮影姿勢を組み合わせたうえで、撮影可能な範囲を広げる機能です。
その仕組みを理解して使えば、三脚を使いにくい場所、暗い室内、夕景や夜景、望遠撮影、マクロ撮影など、これまで手持ちでは難しかった場面でも撮影の自由度を大きく広げることができます。



