動画、録ってる?いま待たれる「スチル専用機」|写真だけに特化したカメラは復活するか
いま販売されているデジタルカメラの多くには、当然のように動画録画機能が搭載されています。4Kはすでに珍しくなくなり、6K、7K、8K、ハイフレームレート、Log、RAW動画、タイムコードなど、かつては業務用映像機器を連想させた機能までミラーレスカメラへ入るようになりました。
ところで、カメラを買った人は本当にそれほど動画を録っているのでしょうか。
野鳥を撮る。鉄道を撮る。風景を撮る。家族を撮る。ポートレートを撮る。スナップを撮る。RAWで撮影して現像する。そこでカメラの用途がほぼ完結していて、動画録画ボタンをほとんど押したことがない人も少なくないはずです。
そうした人にとって、新型機の目玉が「8K対応」「4K120P」「Log強化」「長時間動画録画」と並んでも、それだけで買い替えたくなるとは限りません。
むしろ現在は、「動画はいらない。その分、写真を撮ることだけに徹底したカメラが欲しい」と考える余地が以前より大きくなっています。
動画機能を外せば単純に大幅値下げできる、というほど現在のデジタルカメラは単純ではありません。しかし、ボタン配置、メニュー、端子、放熱、ファインダー、シャッター、電源、製品の思想まで写真中心に組み直せるのであれば、現在のハイブリッドカメラとは違う価値を持つ可能性があります。
この記事では、なぜいまスチル専用機が注目され得るのか、動画を録らない人にとって現在のカメラはどう見えるのか、そしてキヤノンが写真だけに特化したEOSを作るならどのようなカメラになるのかを考えていきます。
現在のカメラ市場全体については、今のカメラ業界は6カテゴリーで分かるでも整理しています。
- いまのカメラは「写真機」よりハイブリッド機になった
- 動画、実際に録ってる?
- スチル専用機とは単に動画ボタンを消すことではない
- 動画録画用の操作系を写真へ戻せる
- 動画専用端子も整理できる
- 動画を外せば熱対策も変わる
- 動画をなくせばカメラは安くなるのか
- 専用機を作れば別の開発コストも発生する
- それでもスチル専用機に意味がある
- EVFを「写真を見る道具」として徹底できる
- シャッターの感触へコストを使うカメラがあってもよい
- 一眼レフがいまも好まれる理由ともつながる
- 写真専用デジタルカメラは現在でも成立している
- スチル専用機は廉価版よりプレミアム機の方が成立しやすい
- キヤノンが作るならどんなスチル専用EOSになるか
- R5系をベースにした高画素スチル専用機も考えられる
- 動画機が増えた今だから写真専用機が目立つ
- 「動画を使わなければいい」だけではない
- スマートフォンで動画を録る人ほどスチル専用機と相性がよい
- 写真専用ならバッテリー設計も変えられる
- 中古一眼レフが残っている理由とも重なる
- スチル専用機は懐古趣味である必要はない
- スチル専用機は誰に向くのか
- キヤノンにはスチル専用EOSを作れる土台がある
- 価格より「写真専用であること」に価値を作れるか
- まとめ|動画を録らない人のためのEOSがあってもいい
いまのカメラは「写真機」よりハイブリッド機になった
現在のミラーレスカメラは、静止画だけを撮る機械というより、写真と動画の両方を扱うハイブリッド機として作られるのが一般的です。
高画素機でも高速連写機でも動画性能が強化され、静止画ユーザー向けに見えるモデルでも高解像度動画や高フレームレート動画に対応することが珍しくありません。
さらにキヤノンにはEOS R50 Vのように、動画録画を強く意識したモデルもあります。
メーカー側から考えれば合理的です。一台で写真も動画も扱えれば、写真愛好家だけでなく、映像制作、YouTube、Vlog、SNS、企業コンテンツ、ライブ配信まで対象を広げられます。
スマートフォンによって一般的な記録用途の多くが置き換えられた現在、専用カメラ市場は以前より狭くなっています。その中で写真だけに用途を限定するより、写真も動画も扱える製品の方が販売対象を広げやすいのは当然です。
しかし、使う側の事情は別です。
動画を録らない人にとって、動画性能が2倍になっても写真が2倍撮りやすくなるわけではありません。
静止画ユーザーには動画性能が買い替え理由にならないことがある
新型機が発表され、「7K動画」「4K120P」「Log強化」「動画RAW対応」と紹介されたとしても、動画を録らない人には直接関係しません。
一方で、高感度耐性が改善する、AF追従が速くなる、EVFが見やすくなる、連写が速くなる、シャッターの応答がよくなる、バッテリーが長持ちするといった進化なら、写真だけを撮る人にもすぐ意味があります。
この違いは大きいでしょう。
キヤノンの静止画側の進化については、キヤノン高速連写ランキングTOP10を見ると分かりやすく、写真ユーザーが求める高速化と動画ユーザーが求める高機能化は必ずしも同じではありません。
動画、実際に録ってる?
動画を録る人が増えていること自体は確かです。SNSでは縦動画が一般化し、YouTubeでは高画質な映像が大量に公開され、写真を中心に活動する人が動画も発信することも珍しくありません。
それでも、カメラを所有する人全員が動画を日常的に録っているわけではありません。
長年写真を撮ってきた人ほど、カメラの使い方がはっきりしている場合があります。
ファインダーをのぞく。構図を決める。露出を決める。ピントを合わせる。シャッターを切る。撮影後にRAW現像する。
そこで完結していて、動画モードへ切り替える必要がない。
そうしたユーザーにとって、動画性能のために大量のメニュー項目や専用ボタン、専用端子が存在している現在のカメラは、必要以上に複雑な機械にも見えます。
もちろん動画機能自体が不要だという話ではありません。
動画を録る人には重要です。
ただし、写真だけを撮る市場が残っているのであれば、その人たちへ向けて最初から写真だけに特化した製品があっても不思議ではありません。
スチル専用機とは単に動画ボタンを消すことではない
スチル専用機と聞くと、動画録画機能をOFFにしただけのカメラを想像しやすいかもしれません。
しかし本当に写真専用を追求するなら、変えられる部分はもっと多くあります。
現在のハイブリッド機には、動画解像度、フレームレート、記録形式、Log、音声録音、マイク設定、ヘッドホン出力、タイムコード、ゼブラ表示、動画AF、動画電子IS、動画クロップなど、多数の動画専用設定があります。
動画を録らない人にとっては、それらが一度も使われないままカメラの中に残り続けます。
スチル専用機なら、メニューそのものを写真用に作り直せます。
メニューを静止画だけにできる
写真専用なら、主要メニューを画質、露出、AF、測光、ドライブ、シャッター、手ブレ補正、フラッシュ、色設定などへ集中できます。
写真と動画で似た項目が別々に存在する必要もありません。
どの設定が静止画へ適用され、どの設定が動画へ適用されるのか迷うことも減ります。
現在のカメラに慣れた人なら複雑なメニューでも使えますが、設定項目が少ないこと自体が操作性になります。
EOS Rシリーズの機種ごとの役割は、EOS Rシリーズの数字の違いで整理しています。ここへ「写真専用」という新しい軸が入れば、現在とは違うシリーズ展開も考えられます。
動画録画用の操作系を写真へ戻せる
現在のカメラには、動画録画をすぐ開始するためのRECボタンが用意されている機種が多くあります。
動画を録らない人にとって、そのボタンはほとんど使わない物理スペースです。
スチル専用機なら、その位置へISO感度、AFエリア、ドライブモード、クロップ、測光、プリ連写など写真撮影で頻繁に使う機能を割り当てられます。
背面や上面のボタン配置も、静止画だけを前提に再設計できます。
ボタン一つの違いに見えても、毎日使うカメラでは大きな差になります。
写真を撮るためのボタンだけで構成できる
シャッタースピード、絞り、ISO感度、露出補正、AFエリア、ドライブモード。
写真撮影で頻繁に変える設定を物理操作へ割り当てれば、ファインダーから目を離さず設定を変更できます。
野鳥やスポーツでは被写体の状況が短時間で変わります。そこで必要なのは、動画モードへ素早く入れることより、AFやシャッタースピードを即座に変えられることです。
高感度性能については、キヤノン高感度耐性ランキングTOP10でも比較しています。
動画専用端子も整理できる
本格的な動画録画では、外部マイクやヘッドホン、外部モニター、外部レコーダーなど周辺機器を接続することがあります。
そのため動画機では接続端子の充実が重要です。
一方、スチル専用機では音声録音そのものが不要です。外部マイク入力やヘッドホン出力の必要性も下がります。
USBは充電、給電、データ転送、テザー撮影に必要ですし、HDMIも画像確認などへ利用できます。そのため端子をすべて減らせるわけではありません。
それでも動画制作を前提とした接続系を整理すれば、側面構造を簡略化できる余地があります。
端子カバーが減れば、防塵防滴構造や操作性にもメリットが出る可能性があります。
動画を外せば熱対策も変わる
高解像度動画で問題になりやすいのが発熱です。
動画録画中はセンサーから大量の情報を連続して読み出し、映像エンジンで処理し、長時間にわたって記録メディアへ書き込み続けます。
8Kや高フレームレートになるほど処理量は増えます。
静止画でも高速連写では大量のデータを処理しますが、一般的には動画のように数十分間連続して同じ処理を続ける使い方ではありません。
写真専用機なら、長時間高解像度動画を前提とした放熱要求は下げられる可能性があります。
ただし、写真専用だから熱対策が不要になるわけではありません。
高速連写、高性能AF、高速センサー読み出し、EVF表示など、静止画でも大きな処理能力を必要とします。
放熱をなくすのではなく、写真撮影に必要な熱設計へ絞れるということです。
動画をなくせばカメラは安くなるのか
スチル専用機へ期待されやすいのが価格です。
「動画を録らないのだから、その機能を削れば安くできるのではないか」と考えるのは分かりやすい発想です。
しかし現在のミラーレスでは、動画だけに使われている主要部品は意外に多くありません。
センサー、映像エンジン、メモリー、記録媒体、AFシステム、モニターなどは写真でも使用します。
ミラーレスはシャッターを切っていない時間も、センサーから映像を読み出してEVFや背面モニターへ表示しています。
構造そのものが、常にセンサーから連続的な映像情報を扱うシステムになっています。
動画を消してもセンサーや映像エンジンは消せない
動画機能だけをOFFにしても、静止画撮影へ必要な主要部品は残ります。
高画素機では高速連写のために高速読み出しが必要です。電子シャッターにも高速読み出しが必要です。被写体認識AFにもリアルタイムの画像解析が必要です。
つまり、動画を削ればハードウェアコストが半分になるような構造ではありません。
EOS R5のような高画素高速機については、EOS R5とは|EFレンズとRFマウントで実力を引き出す高画素フルサイズの使い方でも詳しく紹介しています。
専用機を作れば別の開発コストも発生する
スチル専用機を別モデルとして販売するなら、その製品専用の設計、ファームウェア、外装、操作系、製造管理、在庫管理、販売促進、サポートが必要です。
一台のハイブリッド機を大量に作る方が、写真専用機と動画対応機を別々に作るより効率がよい場合があります。
部品を少し減らしたとしても、専用機の販売台数が少なければ、一台あたりの開発費はむしろ高くなります。
そのため、スチル専用機が登場するとしても「動画なしの廉価版」より、「写真へ徹底的に特化した高付加価値機」の方が成立しやすい可能性があります。
それでもスチル専用機に意味がある
価格が大幅に下がらないなら、写真専用機には意味がないのでしょうか。
専用機の価値は、削った機能の数だけで決まるものではありません。
用途を一つへ絞ることで、その用途へ設計を集中できることにあります。
動画を録らないことを最初から前提にすれば、ファインダー、シャッター、ボタン配置、グリップ、バッテリー、メニュー、AF、静止画画質などへ開発の重点を寄せられます。
何でもできることより、写真を撮る行為そのものを快適にすることを優先できます。
EVFを「写真を見る道具」として徹底できる
ミラーレスではEVFの出来が撮影体験を大きく左右します。
写真専用機なら、動画録画中の表示、動画アスペクト比、音声レベル、タイムコードなどを考える必要がありません。
静止画撮影時の見え方へ徹底して最適化できます。
高解像度化だけでなく、表示遅延を減らす、ブラックアウトを抑える、暗所で見やすくする、白飛びや黒つぶれを確認しやすくする、MF拡大を使いやすくするといった方向があります。
一眼レフの光学ファインダーを好む人にとっても、「何を見る道具なのか」が明確なEVFなら受け入れやすくなる可能性があります。
シャッターの感触へコストを使うカメラがあってもよい
現在のカメラ比較では、画素数、ISO感度、連写速度、動画解像度など数字で比較しやすい性能が中心になります。
しかし写真を大量に撮る人にとって、シャッターボタンの感触、レリーズタイムラグ、シャッター音、グリップの形も重要です。
数値化しにくいから目立たないだけで、毎日使う道具としては大きな差になります。
スチル専用機なら、「8Kが録れる」ことを製品価値にする必要がありません。
その代わり、「シャッターを切る感触がよい」「ファインダーをのぞいて撮りやすい」という写真機本来の部分へコストをかけることができます。
一眼レフがいまも好まれる理由ともつながる
EOS 5D Mark IIやEOS 5D Mark IVのような一眼レフにも動画録画機能はあります。
しかしカメラ全体の操作思想は現在のハイブリッドミラーレスより静止画中心でした。
ファインダーをのぞき、露出を決め、ピントを合わせ、シャッターを切る。
動画を録れる機能があっても、カメラ全体が「写真を撮る道具」として理解しやすい作りでした。
古い一眼レフを現在使うと、最新機より機能は少ないのに、目的が明確で操作しやすいと感じることがあります。
EOS 5D Mark IIの単純さはいま見ると特徴になる
EOS 5D Mark IIには現在のような高度な被写体認識AFも40コマ/秒の高速連写もありません。
それでも、撮影者が設定を決め、光学ファインダーで被写体を見て、シャッターを切るという流れが分かりやすいカメラです。
機能が少ないことは性能面では制約ですが、操作の目的が明確になるという側面もあります。
現在あえて使う意味については、EOS 5D Mark IIを今あえて使う理由で詳しく紹介しています。
写真専用デジタルカメラは現在でも成立している
現在でも、動画録画を主目的とせず写真撮影へ徹底しているデジタルカメラは存在します。
ライカMシリーズは、その代表例として考えやすい存在です。
大量の機能を一台へ詰め込む方向とは異なり、写真を撮る行為そのものへ価値を置いています。
もちろんライカと一般的なEOSでは市場規模も価格帯も違います。
それでも「動画が録れないデジタルカメラでは商品にならない」ということではありません。
用途を明確に限定すること自体が、製品の個性になり得ます。
スチル専用機は廉価版よりプレミアム機の方が成立しやすい
動画機能を削れば安いカメラが作れる、という方向だけで考えると、現在のミラーレスではメリットが小さくなります。
一方、動画を外したうえで、EVF、シャッター、操作系、ボディ剛性、AF、高感度、バッテリーへ重点的にコストを使うなら、製品として明確な個性が生まれます。
写真しか撮らない人向けの上級機です。
これは廉価版ではありません。
機能を減らして安くするのではなく、用途を狭くして質を高めるカメラです。
キヤノンが作るならどんなスチル専用EOSになるか
キヤノンが本気で写真専用EOSを作るなら、既存モデルから動画メニューだけを消した製品では弱いでしょう。
写真専用であることを利用して、カメラそのものを再構成する必要があります。
たとえばフルサイズセンサー、約2400万~3300万画素、高感度性能、高速AF、ボディ内手ブレ補正、電子シャッター、メカシャッター、大型EVF、デュアルカードスロットという構成が考えられます。
動画録画用RECボタンはなくし、写真用のカスタムボタンへ置き換えます。
動画用音声端子は省き、メニューは静止画だけへ整理します。
ボディサイズを無理に小さくせず、しっかり握れるグリップと大型バッテリーを採用してもよいでしょう。
画素数は4500万画素でなくても成立する
写真専用機だから最高画素数である必要はありません。
風景や商品撮影なら高画素が有利ですが、スポーツ、人物、スナップ、室内撮影では約2400万~3300万画素でも十分な用途が多くあります。
高感度、連写、データ量、現像速度とのバランスを考えれば、中画素フルサイズは写真専用機に向いています。
キヤノンの高画素機については、キヤノンの高画素機TOP10|歴代EOSを有効画素数でランキングで比較しています。
R5系をベースにした高画素スチル専用機も考えられる
もう一つ考えられるのが、高画素へ徹底した写真専用機です。
約4500万画素以上のフルサイズセンサーを搭載し、高度な動画録画機能を持たせず、風景、建築、商品、スタジオ、野鳥など静止画へ重点を置きます。
この方向は、かつてのEOS 5Ds/5Ds Rの思想に近くなります。
5Ds/5Ds Rは約5060万画素を武器にした高解像度機で、高速連写や高感度を最優先したカメラではありませんでした。
現在のセンサーとAF技術で同じ考え方を復活させれば、「何でもできるR5」とは違う写真専用高画素EOSを作れます。
5Dsの思想をEOS Rで復活させる
現在のR5系は、写真だけでなく動画性能も非常に高いハイブリッド機です。
そこから高解像度動画や動画向け機能を外し、低ISO画質、ダイナミックレンジ、EVF、シャッター、解像度へ重点を置けば、5Ds系の考え方をミラーレスで復活させることができます。
EOS 5DからR5へ続く流れについては、キヤノン「5の系譜」とは?EOS 5DからR5 Mark IIへ受け継がれた20年の歴史で紹介しています。
動画機が増えた今だから写真専用機が目立つ
以前なら、動画録画機能がないだけで「機能が足りない」と受け取られたかもしれません。
しかし現在は、動画を重視したカメラが独立したカテゴリーとして分かりやすくなっています。
動画を録ることを前提とした製品が増えれば増えるほど、その反対側に写真だけへ特化したモデルを置く意味も見えやすくなります。
動画特化機があるなら、スチル特化機があってもよい。
何でも一台へ入れる時代から、用途ごとにカメラを明確に分ける時代へ進むなら、写真専用機はむしろ自然なカテゴリーになります。
「動画を使わなければいい」だけではない
スチル専用機の話では、「動画録画機能があっても使わなければいい」という考え方もあります。
もちろん現在のEOSでも、動画を一度も録らず静止画だけで使うことはできます。
しかし、スチル専用機を求める理由は動画メニューを見たくないからだけではありません。
動画を搭載しないことで、ボタン、端子、メニュー、放熱、電源、操作思想まで写真へ寄せてほしいという要求です。
「使わなければ済む機能」と「最初から写真のためだけに設計されたカメラ」は同じではありません。
スマートフォンで動画を録る人ほどスチル専用機と相性がよい
日常的な動画録画はスマートフォンで十分と考える人もいます。
短い動画、旅行記録、家族の記録、SNS投稿なら、スマートフォンは取り出してすぐ録れます。
一方、静止画では交換レンズ、大型センサー、高性能AF、超望遠、大口径レンズなど、専用カメラならではの利点が残っています。
動画はスマートフォンで録り、写真はカメラで撮る。
この使い分けなら、専用カメラ側へ高度な動画録画機能を求めないという考え方も成立します。
写真専用ならバッテリー設計も変えられる
動画録画では、センサー、モニター、映像エンジン、記録メディアを長時間連続して動かします。
写真専用機なら、動画録画時間を競う必要はありません。
EVFの高画質表示、AF、長時間待機、連写など、写真撮影へ必要な電力配分を優先できます。
写真専用だから小さなバッテリーにする必要もありません。
むしろ大型バッテリーを搭載し、一日中写真を撮れるカメラへ振り切る方法もあります。
専用化とは小型化や簡略化だけではなく、必要な部分を強化することでもあります。
中古一眼レフが残っている理由とも重なる
古い一眼レフが現在でも使われている理由は、価格だけではありません。
光学ファインダー、シャッター音、グリップ、ダイヤル、操作感など、写真を撮る道具として分かりやすい魅力があります。
最新ミラーレスと比べればAFも高感度も連写も劣ります。それでも写真を撮る行為そのものが明確です。
新しいスチル専用ミラーレスが登場すれば、一眼レフが持っていた撮影道具としての分かりやすさと、最新のセンサーやAFを組み合わせることができます。
スチル専用機は懐古趣味である必要はない
写真専用機というと、昔のカメラへ戻る話に見えることがあります。
しかし必要なのは古い技術へ戻ることではありません。
被写体認識AF、電子シャッター、ボディ内手ブレ補正、高感度センサー、高解像度EVF、無線転送、プリ連写など、写真へ有効な新技術は積極的に搭載できます。
動画録画機能だけを切り離せばよいのです。
古い写真機を再現するのではなく、最新技術だけで作った新しい写真専用機です。
スチル専用機は誰に向くのか
写真専用機がすべての人に向くわけではありません。
写真と動画の両方を一台で扱う人なら、現在のハイブリッド機の方が便利です。
仕事で写真と動画を両方納品する人にとっても、動画録画機能を外す理由はありません。
一方、野鳥、鉄道、航空機、風景、ポートレート、スナップなど、静止画だけを継続して撮る人には明確な意味があります。
新型で動画性能が上がることより、AF、シャッター、ファインダー、高感度、連写、静止画画質が進化してほしい人です。
長年写真を撮っている人ほど、「何でもできること」より「必要なことを快適にできること」を求める場合があります。
キヤノンにはスチル専用EOSを作れる土台がある
キヤノンのEOS Rシリーズは、すでに用途ごとの性格がかなり分かれています。
高速撮影を重視するモデル、高画素を重視するモデル、バランス型、APS-C高速機、小型機、動画重視機があります。
そこへ「写真だけ」という軸を加える余地はあります。
既存のモデル番号へ組み込むのか、専用シリーズを作るのかは別として、静止画だけへ明確に振り切ったモデルは現在のラインアップでも識別しやすい存在になります。
R6クラスの写真専用機は成立しやすい
高画素だけならR5系、高速性を突き詰めるなら上位機があります。
その間で、約2400万~3300万画素、高感度、高速AF、十分な連写、IBIS、大型EVF、デュアルスロット、大型バッテリーを備えたスチル専用機なら、幅広い写真ユーザーへ対応できます。
現在のR6系が持つバランスのよさを、さらに写真へ集中させる考え方です。
R6シリーズの方向性については、EOS R6 Mark III徹底解説|3250万画素フルサイズと7K動画のスタンダード機でも紹介しています。
価格より「写真専用であること」に価値を作れるか
スチル専用機が成立するかどうかは、動画がない分だけ安くできるかだけでは決まりません。
動画録画機能を外しても価格がほとんど変わらなければ、何でもできるハイブリッド機を選ぶ人は多いでしょう。
しかし、ファインダーが圧倒的に見やすい、シャッター操作が気持ちよい、ボタン配置が写真向けに完成されている、メニューが簡潔、バッテリーが長持ちするという違いがあれば、写真専用機を選ぶ理由が生まれます。
重要なのは、動画を「削っただけ」のカメラにしないことです。
動画をなくした結果として、写真を撮るカメラとして明確によくなっている必要があります。
まとめ|動画を録らない人のためのEOSがあってもいい
現在のデジタルカメラは、写真と動画を一台で扱うハイブリッド機が主流です。
4K、6K、7K、8K、Log、RAW動画、高フレームレートなど、動画録画性能は大きく進化しました。
その機能を必要としている人がいる一方で、カメラを何年使っても動画録画ボタンをほとんど押さない人もいます。
そうしたユーザーにとって、新型機の動画性能が大幅に強化されても、写真を撮る体験はほとんど変わりません。
動画を外しただけでカメラ価格が劇的に下がる可能性は高くありません。センサー、映像エンジン、AF、記録メディアなど、写真と動画で共通する部品が多いからです。
それでもスチル専用機には意味があります。
動画用メニュー、録画ボタン、音声関係、動画向け端子、長時間動画録画を前提とした設計から離れ、その分をファインダー、シャッター、操作系、AF、高感度、連写、バッテリー、静止画画質へ集中できます。
動画へ特化したカメラが成立するなら、その反対側に写真へ特化したカメラが存在しても不自然ではありません。
スマートフォンで動画を録り、専用カメラでは写真を撮る人もいます。
最初から動画を必要としない人もいます。
そうしたユーザーへ向けた「最新技術で作った写真専用EOS」は、何でもできるカメラが増えた現在だからこそ、はっきりした個性を持つはずです。
動画、録ってる?
その問いに「ほとんど録っていない」と答える人が十分にいるなら、次に待たれるのは動画性能をさらに増やしたカメラだけではありません。
写真を撮るためだけに作られた、新しいスチル専用機です。



