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写真と動画、なぜ分けない?スチル専用機と動画専用機なら性能はもっと尖らせられる

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写真と動画、なぜ分けない?スチル専用機と動画専用機なら性能はもっと尖らせられる カメラ豆知識

写真と動画、なぜ分けない?スチル専用機と動画専用機なら性能はもっと尖らせられる

現在のミラーレスカメラは、写真も動画も一台でこなすことが当たり前になっています。高画素、高速連写、高感度、被写体認識AFといった静止画性能を備えながら、4K、6K、8K、高フレームレート、Log、RAW動画まで搭載する。新型カメラが発表されるたびに、静止画と動画の両方でどこまで性能が向上したのかが大きく取り上げられます。

しかし、実際の使い方を考えると少し不思議です。写真しか撮らない人は珍しくありません。野鳥、鉄道、航空機、風景、ポートレート、スナップなど、何年カメラを使っていても動画録画ボタンをほとんど押さない人はいます。反対に、YouTube、Vlog、映像制作、ライブ配信などが中心で、静止画はほとんど撮らない人もいます。

それなら、なぜ写真専用機と動画専用機をもっと明確に分けないのでしょうか。写真しか撮らない人にとって、8K動画、Log、音声設定、タイムコードは必要ありません。動画しか録らない人にとっては、メカシャッター、高速静止画連写、フラッシュ制御、静止画用の高画素JPEGが必須とは限りません。

用途を分ければ、スチル専用機は高画素、高感度、AF、EVF、シャッター、連写、バッファーへ性能を集中できます。動画専用機なら4K120P、8K60P、高速読み出し、長時間録画、冷却、音声、電動ズームへ設計を振り切れます。単純に機能を減らして安くするのではなく、同じ価格でも必要な能力をもっと高くできる可能性があります。

現在のカメラ市場はすでに細分化が進んでいます。ミラーレス、一眼レフ、コンデジ、Vlog機、アクションカメラ、フィルムカメラなど、それぞれに異なる用途があります。詳しくは今のカメラ業界は6カテゴリーで分かるで整理しています。それなら写真と動画についても、万能機だけではなく専用機という選択肢があっても不思議ではありません。

  1. いまのカメラは写真機と動画機を一台へ詰め込んでいる
    1. EOS Rシリーズを見ても万能化は明確
  2. スチル専用機なら高画素へもっと振り切れる
    1. 5Dsの思想を現代のミラーレスで進める
  3. スチル専用なら高感度型という別の方向も作れる
    1. 高画素型と高感度型を分けることもできる
  4. 連写・AF・バッファーも静止画へ集中できる
    1. 連写はコマ数だけでは決まらない
  5. EVFも写真専用として作り直せる
    1. 一眼レフの撮影感覚を最新技術で再構成する
  6. 動画専用機は画素数より高速読み出しを優先できる
    1. 動画では「何万画素」より「何フレーム読めるか」が重要
  7. 動画専用なら4K120Pや8K60Pへ設計を集中できる
    1. 長時間録画を前提に冷却を中心へ置く
  8. 動画専用ならカメラの形そのものを変えられる
    1. ハンディカム型が消えたから形まで間違いだったわけではない
  9. 交換レンズ式ハンディカムという形も考えられる
    1. 既存レンズ資産を残せば専用機でも自由度は高い
  10. 動画専用なら電動ズームを本気で設計できる
  11. 音声も動画専用なら中心機能へできる
  12. 動画専用ならメカシャッターもいらない
  13. 写真と動画ではボディに求めるものが根本から違う
    1. R5系のような万能機には万能機の価値がある
  14. 同じ価格なら専用機の方が性能を尖らせやすい
  15. メーカーが分けたがらない理由は販売効率にある
    1. メーカーの合理性と利用者の合理性は一致しない
  16. スペック表では「何でもできる」方が売りやすい
  17. スチル専用機は「動画なし廉価版」では意味がない
    1. スチル専用機を求める理由は機能を減らしたいだけではない
  18. 動画専用機も「写真が撮れないだけ」では意味がない
  19. Vlog機はすでに少しずつ専用化へ向かっている
    1. R50 Vをさらに振り切れば別の製品になる
  20. 写真専用・動画専用・ハイブリッドの3種類があればよい
  21. 写真だけの人と動画だけの人が同じボディを買う不思議
  22. まとめ|一台で何でもできる次は、何をしないかを決めてもよい

いまのカメラは写真機と動画機を一台へ詰め込んでいる

現在のミラーレスカメラは、一台の内部に写真機と動画機を同居させています。センサー、映像エンジン、AF、手ブレ補正、記録媒体、液晶モニター、通信機能の多くを静止画と動画で共有できるため、この構成は非常に合理的です。

写真を撮るときには高画素センサーとして使い、動画を録るときには同じセンサーから毎秒30回、60回、120回と連続して映像を読み出します。被写体認識AFも静止画と動画の両方で使えますし、IBISも両方で機能します。メーカーから見れば、共通のハードウェアへ二つの用途を持たせられるため、一台にまとめるメリットは大きくなります。

さらに、一台で写真も動画も使えるカメラなら、写真ユーザー、動画ユーザー、両方を使うユーザーのすべてへ販売できます。専用カメラ市場がスマートフォン以前より小さくなった現在、一機種あたりの販売台数を確保するという意味でも、万能型のハイブリッド機はメーカーにとって扱いやすい製品です。

ただし、メーカーにとって合理的であることと、利用者一人ひとりにとって最適であることは同じではありません。両方の機能を必要とする人もいれば、片方をまったく使わない人もいます。

EOS Rシリーズを見ても万能化は明確

キヤノンのEOS Rシリーズを見ても、現在のカメラがどれほど万能化しているかが分かります。シリーズ内の位置付けについてはEOS Rシリーズの数字の違いで整理していますが、上位機から普及機まで静止画と動画の両方を大きな商品価値として扱っています。

高画素機には高解像度動画が搭載され、高速機には高フレームレート動画が搭載されます。静止画AFが進化すれば動画AFにも展開され、センサー読み出し速度が上がれば電子シャッターの連写と動画性能の両方が向上します。この共通化は効率的ですが、逆に言えば写真だけ、動画だけへ100%設計を集中した製品ではありません。

写真しか撮らない人にとっては、新型機の進化の半分が動画へ向かっているように見えることがあります。動画しか録らない人から見れば、静止画側へ使われている設計や部品を動画性能へ回してほしいと感じる場面もあります。

スチル専用機なら高画素へもっと振り切れる

写真専用機を考えた場合、最も分かりやすい方向のひとつが高画素化です。現在の高画素ミラーレスでは、センサーの画素数を増やすだけでは済みません。そのセンサーを動画でも利用するため、膨大なデータを高速かつ連続的に読み出す能力が必要になります。

静止画で6000万画素を撮るのであれば、一枚分の画像データを読み出し、処理し、保存できれば成立します。しかし動画で同じセンサーを使う場合、毎秒30回や60回という速度で連続読み出しを続けなければなりません。高画素になるほど処理量が増え、高速なセンサー読み出し、映像エンジン、大容量バッファー、高速記録媒体、放熱が必要になります。

写真専用なら、動画のフレームレートへ性能を使う必要がありません。センサーの設計を静止画一枚あたりの解像度、低ISO画質、ダイナミックレンジへ振ることができます。6000万画素、8000万画素、1億画素といった方向へ進めても、動画側との折り合いを付ける必要が小さくなります。

風景、建築、商品撮影、スタジオ、野鳥などでは、高画素は単なる数字ではありません。細部描写、トリミング耐性、大判プリントなどへ直接影響します。写真だけを目的にするなら、ここへ予算と設計を集中させる意味があります。

5Dsの思想を現代のミラーレスで進める

キヤノンにはEOS 5Ds/5Ds Rという、高画素静止画へ強く振った一眼レフがありました。現在の高画素EOSとの違いはキヤノンの高画素機TOP10で比較していますが、この思想を現代のミラーレスでさらに進めることはできます。

たとえば動画を搭載しない代わりに、6000万画素以上のセンサー、高解像度EVF、強力なIBIS、低ISO時の高い階調表現、大容量バッファーを搭載する。写真専用であることを弱点ではなく、性能を集中するための特徴にするわけです。

EOS R5系が写真と動画の両方を高水準でこなす万能機なら、別にスチル専用高画素機があっても役割は重なりません。万能機と専門機として共存できます。

スチル専用なら高感度型という別の方向も作れる

写真専用だからといって、高画素だけが正解ではありません。画素数を2000万~2500万画素程度へ抑え、高感度、高速読み出し、ダイナミックレンジへ性能を振るモデルも考えられます。

野鳥、スポーツ、舞台、室内、夜間撮影では、画素数以上に高感度画質が重要になる場面があります。暗い場所で被写体ブレを防ぐためにはシャッタースピードを上げる必要があり、そのためにISO感度を上げなければならないからです。

現在のハイブリッド機では、高感度性能だけではなく動画記録とのバランスも求められます。写真専用なら、暗所での静止画画質、AFの追従性、EVFの視認性などを一つの方向へまとめやすくなります。

高画素型と高感度型を分けることもできる

キヤノン各機種の高感度傾向についてはキヤノン高感度耐性ランキングTOP10で比較しています。ここからさらに専用化を進めるなら、「高画素スチル機」と「高感度・高速スチル機」という二本立ても考えられます。

風景撮影では解像度を優先し、夜間スポーツでは高感度とAFを優先する。写真だけを撮る人の中でも必要な性能は大きく違うため、すべてを一台へ詰め込むより、用途を明確にした方が製品の個性も分かりやすくなります。

写真専用という大きな枠の中でも、高画素型と高速型を分ければ、ユーザーは自分の撮影に必要な性能へ直接お金を使えます。

連写・AF・バッファーも静止画へ集中できる

動体撮影では高画素だけでは足りません。AF、連写、バッファー、センサー読み出し速度、EVFの表示遅延などが撮影成功率を左右します。野鳥やスポーツでは、被写体を捕捉してから何秒追い続けられるか、連写中にEVFがどれだけ安定して見えるか、バッファーが詰まらないかといった部分が重要です。

ハイブリッド機では映像エンジンやメモリー帯域を動画にも使います。4K120Pや8Kといった動画を実現するためには、膨大なデータを連続処理する能力が必要です。スチル専用なら、その処理能力を静止画のAF演算、高速連写、プリ撮影、バッファー処理へ優先的に使えます。

単純に最高連写速度だけを上げるのではなく、AF追従を保ったまま連写を続ける、ブラックアウトを減らす、RAWで長く撮り続ける、撮影後すぐ次の連写へ移るといった実用性能へ集中できます。

連写はコマ数だけでは決まらない

歴代EOSの連写性能はキヤノン高速連写ランキングTOP10で比較していますが、40コマ/秒という数字だけで高速機の使いやすさは決まりません。

ローリングシャッター歪み、AF追従、バッファー容量、記録速度、ファインダー表示、シャッターラグなどが組み合わさって初めて実戦で使える高速機になります。動画性能を持たない高速スチル機なら、この一連の性能を写真撮影だけに合わせて設計できます。

野鳥やスポーツを撮る人にとって、8K動画を一度も使わないのであれば、その分だけ静止画性能へ振ったモデルの方が魅力的に見える可能性があります。

EVFも写真専用として作り直せる

ミラーレスで写真を撮る場合、EVFは撮影体験そのものです。被写体を追い、構図を決め、露出を確認し、シャッターを切るまで常にEVFを見続けます。そのためEVFの解像度、倍率、遅延、暗所での視認性は、スペック表以上に使い勝手へ影響します。

動画を前提にすると、動画アスペクト比、音声レベル、ゼブラ、録画時間、動画クロップなど、表示しなければならない情報が増えます。写真専用なら、表示内容を静止画へ絞り、AF枠、ヒストグラム、露出、被写界深度、拡大表示などへ集中できます。

さらに高解像度、大倍率、低遅延を優先し、シャッターを切る瞬間のブラックアウトも可能な限り減らす。写真専用機なら、EVFそのものを大きな商品価値として設計できます。

一眼レフの撮影感覚を最新技術で再構成する

EOS 5D Mark IIのような一眼レフが今も魅力を持つ理由についてはEOS 5D Mark IIを今あえて使う理由で取り上げています。古い機種だから優れているという話ではなく、写真を撮るための機械として役割が分かりやすい点が現在の万能機とは異なります。

スチル専用ミラーレスが目指すべきなのは、一眼レフへ戻ることではありません。最新の被写体認識AF、IBIS、電子シャッター、高感度性能を使いながら、操作系と撮影体験を静止画へ集中することです。

動画を録れない代わりに、ファインダーをのぞいてシャッターを切る行為そのものを現在の技術で磨き上げる。その方向なら、単なる機能削減機ではなくなります。

動画専用機は画素数より高速読み出しを優先できる

動画専用機では、スチル専用機とは優先順位が逆になります。4K映像は約830万画素、8K映像は約3300万画素の解像度です。動画だけを録るのであれば、静止画向けの6000万画素や8000万画素が必ず必要になるわけではありません。

重要なのは、必要な画素をどれだけ速く、どれだけ安定して読み出せるかです。4K60Pでは毎秒60回、4K120Pでは毎秒120回の映像を処理します。8K60Pなら高解像度の映像を毎秒60回処理し続けます。

動画専用なら、静止画の最高画素数を競うより、センサー読み出し速度、映像エンジン、メモリー帯域、記録速度へ性能を振ることができます。ローリングシャッター歪みを減らすことも、動く被写体やパン撮影では重要です。

動画では「何万画素」より「何フレーム読めるか」が重要

動画重視機の考え方についてはEOS R6 Vは動画時代の本命か?フルサイズVシリーズで変わる撮影体験でも扱っています。動画では一枚の最高解像度より、毎秒何回センサーを読み出し、それをどれだけ長く安定して続けられるかが重要になります。

静止画用の高画素を抑え、その分だけ高速読み出しへ振れば、4K120Pや8K60Pを実現しやすくなります。読み出し速度が上がれば、動体撮影時の歪みも抑えやすくなります。

動画専用機では、センサーの評価軸そのものを静止画とは別にできるわけです。

動画専用なら4K120Pや8K60Pへ設計を集中できる

動画専用機を作るなら、静止画機能を削るだけでは意味がありません。静止画を撮れなくした代わりに、動画性能が明確に上がって初めて専用機として成立します。

たとえば4K120Pを長時間記録できること、8K60Pを安定して使えること、高ビットレートやRAW動画を途中で熱停止せず記録できることなどです。動画ユーザーにとっては、最高静止画画素数よりも、こうした性能の方が直接的な価値になります。

高フレームレートになるほどデータ量と発熱は増えるため、センサーと映像エンジンだけではなく、記録媒体や放熱まで含めて動画用に設計する必要があります。ハイブリッド機では小型化や防塵防滴、写真用グリップとのバランスを取りますが、動画専用なら優先順位を変えられます。

長時間録画を前提に冷却を中心へ置く

EOS R50 Vのような動画志向モデルについてはEOS R50 Vの静止画性能でも取り上げていますが、動画専用機へさらに振り切るなら放熱を中心にしたボディ設計ができます。

冷却ファン、大型ヒートシンク、吸排気経路を最初から組み込み、ボディが多少厚くなっても長時間記録を優先する。動画を仕事やライブ配信で使う場合、数十グラム軽いことより途中で停止しないことの方が重要です。

写真では数百分の一秒、数千分の一秒の瞬間を記録すればよいのに対し、動画では30分、1時間、数時間と連続動作する場合があります。この違いだけでも、同じボディ設計が最適とは限りません。

動画専用ならカメラの形そのものを変えられる

写真と動画を分ける最大の利点は、性能だけではありません。ボディ形状そのものを用途へ合わせられます。

現在のVlog向けミラーレスは動画を大きく意識していますが、基本形は写真機です。右手でグリップを握り、人差し指の位置にシャッターボタンがあり、レンズは正面中央付近に配置されています。

しかし動画しか録らないのであれば、その形を維持する理由は弱くなります。長時間持ちやすい横長ボディ、右手を通すハンドストラップ、親指の位置にある大型RECボタン、人差し指で操作するズームレバー、大型モニター、大容量バッテリーといったハンディカム型の考え方を取り入れることができます。

動画を長時間録る道具として見ると、この形には合理性があります。写真機に動画機能を加える発想から離れ、動画を録るための形を最初から作ることができます。

ハンディカム型が消えたから形まで間違いだったわけではない

家庭用ビデオカメラが縮小した背景についてはハンディカムはなぜ消えた?動画の主役がミラーレスへ移った理由で詳しく紹介しています。ハンディカム型が市場から目立たなくなったのは、形が使いにくかったからではありません。

日常動画はスマートフォンへ、高画質な映像制作は一眼レフやミラーレスへ移り、その中間にあった家庭用ビデオカメラ市場が縮小しました。動画専用機としての横持ち、ハンドストラップ、電動ズーム、長時間録画という考え方自体は、現在でも合理的です。

動画専用ミラーレスを本気で作るなら、その合理性を現代の大型センサーや交換レンズと組み合わせる方法があります。

交換レンズ式ハンディカムという形も考えられる

動画専用機をハンディカム型へ寄せるからといって、固定レンズへ戻す必要はありません。RFマウントやEマウントのような交換レンズシステムを残し、ボディだけを動画用に設計することもできます。

広角単焦点、大口径標準、超望遠といった現在の交換レンズを利用しながら、ボディ側にはハンドストラップ、RECボタン、ズームレバー、大型モニター、冷却、音声入力、大容量バッテリーを備える。これは現在のミラーレスと業務用カムコーダーの中間にあるような製品になります。

交換レンズ式ではレンズ重量が一定ではないため、昔の固定レンズ式ハンディカムほど片手保持へ最適化するのは難しくなります。それでも、操作系や電源、音声、冷却を動画へ合わせるだけで、現在の写真機型ミラーレスとは大きく異なる使い勝手になります。

既存レンズ資産を残せば専用機でも自由度は高い

キヤノンのRF、RF-S、EF、EF-Sなどの関係についてはCanonレンズ対応表で整理しています。動画専用ボディでも既存マウントを使えば、現在の交換レンズ資産をそのまま利用できます。

固定レンズのビデオカメラが持っていた操作性と、ミラーレスが持つ交換レンズの表現力を組み合わせれば、「写真も撮れる動画機」ではなく、レンズ交換ができる本格動画専用機という新しい位置付けになります。

動画だけを録る人にとっては、静止画機能よりこの方が製品としての魅力が分かりやすくなります。

動画専用なら電動ズームを本気で設計できる

ハンディカムを使っていた人がミラーレス動画へ移ると、ズーム操作には特に違和感が出やすくなります。写真用ズームレンズでは、左手でズームリングを回します。静止画なら撮影前に画角を決めればよいため問題ありませんが、動画では録画中にズームそのものを映像表現として使うことがあります。

リングを手で回すと速度を一定にするのが難しく、カメラへ力が加わるため画面も揺れやすくなります。ハンディカムでは人差し指のズームレバーを操作するだけで、滑らかに寄ったり引いたりできます。レバーの押し込み量によって速度を変えられる機種なら、ゆっくりしたズームも簡単です。

動画専用機なら、ボディ側の電動ズームレバーと対応レンズを最初からセットで考えることができます。写真機のズームリングを動画でも使うのではなく、動画に適したズーム操作を標準にするわけです。

音声も動画専用なら中心機能へできる

静止画では音声を記録する必要がありませんが、動画では音声品質が映像全体の完成度を左右します。どれだけきれいな4K映像でも、ノイズだらけの音声や聞き取りにくい声では作品として使いにくくなります。

ハイブリッド機では、写真機を基礎にマイク端子やヘッドホン端子を追加する形が一般的です。動画専用機なら、高性能なマイクプリアンプ、音声レベル調整、XLR入力、大型のレベルメーターなどを最初から中心機能として設計できます。

ボディ上部へマイクを載せたときの配線や、ヘッドホンを使ったモニタリングまで含めて設計できるため、映像だけでなく録音機としての完成度も上げられます。

動画専用ならメカシャッターもいらない

動画しか録らないカメラでは、静止画用のメカシャッターを搭載する必要がありません。動画はセンサーから連続して電子的に映像を読み出すため、露光のたびに物理的なシャッター幕を動かす必要がないからです。

メカシャッターは精密な駆動機構であり、耐久性、振動、スペース、コストを伴います。動画専用ならその機構を省き、空いたスペースを冷却、バッテリー、音声回路へ使えます。

一方、スチル専用機ではメカシャッターを残し、耐久性やシャッターフィーリングを徹底的に磨くことができます。同じ部品が一方では重要で、もう一方では不要になること自体が、写真と動画を一台へまとめる難しさを示しています。

写真と動画ではボディに求めるものが根本から違う

写真では、一瞬を確実に切り取ることが重要です。構えて、ピントを合わせ、シャッターを切る。場合によっては高速連写で数秒間撮り続けますが、基本的には短時間の動作を繰り返します。

動画では、一度RECボタンを押したら何分、何十分と記録を続けます。その間ずっとセンサー、映像エンジン、記録媒体が動き続け、音声も記録します。長時間保持のしやすさ、熱、電源、記録容量などが重要になります。

写真では大型EVFをのぞきやすい形が重要ですが、動画では横へ開く大型モニターや外部モニターを使うことがあります。写真ではシャッターボタンの位置が重要ですが、動画ではRECボタンやズームレバーが重要です。

同じセンサーを使えるからといって、最適な道具の形まで同じとは限りません。

R5系のような万能機には万能機の価値がある

写真と動画を一台へまとめること自体に問題があるわけではありません。EOS 5DからEOS R5へ続く流れについてはキヤノン「5の系譜」とは?EOS 5DからR5 Mark IIへ受け継がれた20年の歴史で紹介していますが、R5系のような万能機だからこそ価値がある用途は数多くあります。

取材で静止画と動画の両方を撮る人、旅行へ一台だけ持っていきたい人、仕事で写真と映像を両方納品する人にとって、ハイブリッド機は非常に便利です。

問題は、万能機しか選べないことです。万能機を残しながら、その両側にスチル専用と動画専用を用意すれば、利用者は用途に合わせて選べます。

同じ価格なら専用機の方が性能を尖らせやすい

専用機へ分ければ必ず安くなる、と単純には言えません。センサー、映像エンジン、AF、液晶、通信機能などは写真と動画で共通しているため、片方の機能を削っても原価が半分になるわけではありません。

さらに写真専用機と動画専用機を別々に開発すれば、筐体設計、ファームウェア、製造管理、在庫、販売なども二系統になります。一機種あたりの販売台数が減れば、量産効果も弱くなります。

それでも「同じ価格でどこまで性能を高められるか」という視点なら、専用化には意味があります。30万円のハイブリッド機が写真と動画の両方へ設計を配分しているなら、30万円のスチル専用機は写真性能へ、30万円の動画専用機は動画性能へ優先的に資源を使えます。

つまり専用化の目的は、単に安くすることではありません。同じ価格なら、使う機能へもっと大きく性能を振ることです。

メーカーが分けたがらない理由は販売効率にある

利用者から見ると専用機は合理的ですが、メーカーから見ると事情が変わります。写真専用機を作れば動画ユーザーは買いません。動画専用機を作れば写真ユーザーは買いません。しかし一台で両方できれば、どちらの層にも販売できます。

専用カメラ市場そのものが以前より小さくなった現在、ひとつの市場をさらに細かく分けることはメーカーにとってリスクになります。年間10万台売れる万能機を二機種に分けても、それぞれ5万台ずつ売れるとは限りません。開発費や金型、流通、広告などは機種ごとに必要です。

そのためメーカーは、できるだけ多くの人に売れる共通ボディを作り、その中で写真寄り、動画寄りという性格を付ける方法を選びやすくなります。

メーカーの合理性と利用者の合理性は一致しない

現在のカメラ市場全体の構造については今のカメラ業界は6カテゴリーで分かるでも触れていますが、市場が小さくなるほどメーカーは一機種の対象を広げようとします。

メーカーから見れば、写真も動画もできる一台を大量に売った方が効率的です。しかし利用者から見ると、使わない機能を搭載するより、自分が使う性能へ振り切ってほしいと考えることがあります。

ここに現在のカメラ市場のねじれがあります。メーカーにとっての最適解と、用途が明確なユーザーにとっての最適解が同じではありません。

スペック表では「何でもできる」方が売りやすい

製品の見せ方という問題もあります。「4500万画素、30コマ/秒、8K動画対応」と並べれば、非常に高性能なカメラに見えます。購入者が実際には8Kを一度も録らなくても、機能が付いていることで価値を感じる場合があります。

反対に「6000万画素、動画録画不可」と書けば、写真しか撮らない人には問題がなくても、機能が少ない製品と受け取られる可能性があります。動画専用機でも同様で、静止画をほとんど使わなくても「写真も撮れます」と書けた方が商品として広く見せられます。

現在のデジタル製品では、機能を削ることそのものを価値として説明するのが難しくなっています。だから専用機を作るなら、単なる削減ではなく「削った分だけ何が大きく良くなったのか」を明確にしなければなりません。

スチル専用機は「動画なし廉価版」では意味がない

スチル専用機を作る場合、動画機能を削っただけの廉価版にしてしまうと魅力はありません。「動画は録れません。その代わり少し安いです」だけなら、多少高くても万能機を選ぶ人が多くなります。

専用化するなら、高画素、高感度、AF、EVF、連写、シャッター、バッファー、バッテリーなどが明確に向上している必要があります。動画を削った理由が、静止画性能へ結び付いていなければ意味がありません。

たとえばR5クラスの価格で動画をなくす代わりに、さらに高い画素数、大型EVF、高速AF、大容量バッファーを与える。そうなれば、写真しか撮らない人にとって万能機とは別の選択肢になります。

スチル専用機を求める理由は機能を減らしたいだけではない

スチル専用機そのものについては動画、録ってる?いま待たれる「スチル専用機」|写真だけに特化したカメラは復活するかで詳しく考察しています。

求められているのは、動画を消しただけのカメラではありません。写真専用だからこそ、写真を撮るための操作、ファインダー、画質、AF、レスポンスが優れているカメラです。

専用機の価値は「できないこと」ではなく、「その代わり何が圧倒的にできるようになったか」で決まります。

動画専用機も「写真が撮れないだけ」では意味がない

動画専用機も同じです。静止画モードを削っただけのミラーレスでは、単に機能の少ないカメラになってしまいます。動画だけにした結果として、録画性能、操作性、冷却、音声、電源が明確に良くなる必要があります。

4K120Pや8K60Pを長時間使えること、ローリングシャッターを抑えること、冷却ファンを搭載して熱停止しにくくすること、大型バッテリーで連続運用できること、ボディ側の電動ズームレバーを使えること、音声入力を強化することなどが専用化の意味になります。

さらに、写真機の形を維持する必要もありません。長時間保持しやすいグリップ、大型RECボタン、横持ち構造、大型モニターなど、動画を録るために合理的な形へ変えることができます。

ここまで行って初めて、動画専用であることが性能として現れます。

Vlog機はすでに少しずつ専用化へ向かっている

現在のVlog向けカメラを見ると、写真と動画を完全に分けてはいないものの、メーカーも両者の操作性が違うことは認識していると考えられます。

動画向けモデルではRECボタンを押しやすくし、タリーランプを付け、ズームレバーを設け、動画メニューを前面に出すといった変更が行われています。つまり従来の写真機の操作系では、動画撮影に必ずしも最適ではないことが製品設計にも表れています。

それでも基本形はミラーレスカメラのままです。写真機の形を残し、その中で動画向けに調整しています。

R50 Vをさらに振り切れば別の製品になる

EOS R50 Vの静止画側から見た特徴についてはEOS R50 Vの静止画性能で紹介しています。現在は写真も撮れる動画志向機ですが、ここからさらに動画へ振り切れば別の製品になります。

静止画専用機能やメカシャッターをなくし、冷却、大型バッテリー、音声、電動ズーム、長時間録画へ振る。さらにハンディカム型の保持方法を取り入れる。そうなれば「動画が得意な写真機」から「交換レンズ式の動画専用機」へ性格が変わります。

Vlog機が増えている現在だからこそ、この一歩先に本当の動画専用機という選択肢があっても不自然ではありません。

写真専用・動画専用・ハイブリッドの3種類があればよい

写真と動画を分けるからといって、現在のハイブリッド機をなくす必要はありません。写真と動画の両方を使う人にとって、一台で済むことは大きな利点だからです。

それなら、スチル専用、ハイブリッド、動画専用の三種類を並べればよいことになります。写真しか撮らない人はスチル専用、両方使う人はハイブリッド、動画しか録らない人は動画専用を選ぶ。それぞれが自分の用途へ合った機種を選べます。

自動車には軽自動車、ミニバン、SUV、スポーツカー、トラックがあります。どれも道路を走るという基本機能は同じですが、用途に合わせてボディ形状も性能配分も違います。カメラも同じように、センサーで光を記録するという基本機能を共有しながら、用途別にもっと大きく分けることはできます。

写真だけの人と動画だけの人が同じボディを買う不思議

現在の市場では、写真しか撮らない人と動画しか録らない人が、同じボディを買うことがあります。片方は動画機能をほとんど使わず、もう片方は静止画機能をほとんど使いません。

共通部品が多いためメーカーには合理性がありますが、利用者側から見ると不思議な構造です。写真しか撮らない人が高価な8K動画機能を搭載したカメラを買い、動画しか録らない人が高耐久メカシャッターや高速静止画連写を搭載したカメラを買うからです。

用途を分ければ、購入価格の中でどこへコストが使われているのかも分かりやすくなります。写真機なら写真へ、動画機なら動画へ、万能機なら両方へという製品思想が明確になります。

まとめ|一台で何でもできる次は、何をしないかを決めてもよい

現在のミラーレスカメラは、写真と動画を一台へまとめることで大きく発展しました。センサー、映像エンジン、AF、手ブレ補正など多くの技術を共有できるため、メーカーにとっても利用者にとってもハイブリッド化には大きなメリットがあります。

しかし、すべての利用者が写真と動画の両方を使うわけではありません。写真しか撮らない人もいれば、動画しか録らない人もいます。その人たちにとって、一台ですべてができることより、自分が使う機能へ性能を集中したカメラの方が魅力的になる場合があります。

スチル専用なら、高画素、高感度、AF、EVF、シャッター、連写、バッファーへ振ることができます。高画素型と高感度・高速型へさらに分けることも可能です。動画録画を搭載しない代わりに、写真を撮るための性能と操作性を徹底的に高めれば、万能機とは違う存在意義が生まれます。

動画専用なら、4K120P、8K60P、高速読み出し、低ローリングシャッター、長時間録画、冷却、音声、電動ズーム、大容量バッテリーへ性能を集中できます。ボディ形状も写真機へ合わせる必要はなく、ハンディカムや業務用カムコーダーの合理性を取り入れた形にできます。

専用化すれば必ず安くなるわけではありません。二種類の製品を開発すれば製造効率が下がり、販売台数も分散します。そのためメーカーは一台で広い市場を狙えるハイブリッド機を作りたがります。

それでも、同じ価格でどこまで目的の性能を高められるかという視点なら、専用化には大きな意味があります。写真ユーザーが動画性能へ、動画ユーザーが静止画性能へコストを払うのではなく、それぞれが使う能力へ価格を振り向けることができるからです。

写真専用。

写真と動画のハイブリッド。

動画専用。

この三つが並んでいてもよいはずです。一台で何でもできるカメラが十分に成熟した現在だからこそ、次は逆に「何をしないか」を明確にしたカメラがあってもよいのではないでしょうか。

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