MTFチャートのサジタル・メリジオナルとは?S線・M線の違いと見方
レンズの性能を調べてMTFチャートを見ると、「S」「M」「Sagittal」「Meridional」といった表記が出てくることがあります。
MTFチャートそのものでも複数の線が描かれているため、初めて見ると「どの線を見ればよいのか」「S線とM線は何が違うのか」が分かりにくいところです。
サジタルとメリジオナルは、レンズが細かな模様をどの方向で再現できるかを見るための考え方です。
サジタルは画面中心から外側へ向かう放射方向、メリジオナルはそれと直交する方向の模様を基準として見ます。
レンズは完全に理想的な光学系ではないため、画面中央から周辺へ移動すると、同じ細かさの模様でも方向によって再現性が変わることがあります。
その違いを確認できるのが、MTFチャートに描かれるS線とM線です。
S線とM線が近い位置を保っているレンズもあれば、画面周辺へ向かうにつれて二つの線が離れていくレンズもあります。
この差を見ることで、単純な「中央解像力が高い」「MTFが高い」という情報だけでは分からない、レンズの周辺描写や方向による再現性の違いを読み取ることができます。
この記事では、サジタルとメリジオナルの意味から、S線・M線の読み方、10本/mmと30本/mmとの関係、実際のレンズ選びでどこまで重視すればよいのかまで詳しく解説します。
サジタルとメリジオナルの基本を理解する
- サジタルは画面中心から外側へ向かう方向を見る
- メリジオナルはサジタルと直交する方向を見る
- S線とM線の差から方向による描写の違いを確認する
サジタルは画面中心から外側へ向かう方向を見る
サジタルは、英語ではSagittalと表記され、MTFチャートでは「S」と省略されることがあります。
レンズの中心から画面周辺へ向かって放射状に伸びる方向を基準として、細かな模様をどの程度再現できるかを見るものです。
円の中心から外側へ線を引いた状態を想像すると分かりやすくなります。
写真の中央では方向の違いはほとんど問題になりませんが、画面周辺へ進むにつれて、レンズの収差によって模様の方向ごとに再現性が変わることがあります。
そこで、放射方向の模様を基準にしたサジタルと、別方向の模様を基準にしたメリジオナルを分けて確認します。
MTFチャートでは、横軸が画面中心からの距離、縦軸がコントラストの再現性を表す形式が一般的です。
左側が画面中央、右側へ進むほど画面周辺になります。
サジタルの曲線が中央から周辺まで高い位置を維持していれば、その方向の模様についてはコントラストや細部を保ちやすい傾向があると考えられます。
MTFそのものの基本については、MTF50とは?レンズ解像力を数値で比較するときの見方と注意点で詳しく解説しています。
メリジオナルはサジタルと直交する方向を見る
メリジオナルは英語ではMeridionalと表記され、MTFチャートでは「M」と省略されます。
サジタル方向と直交する向きの細かな模様を、レンズがどの程度再現できるかを見るものです。
画面周辺を円周として考えると、サジタルが中心から外へ向かう方向なのに対し、メリジオナルはその円周に沿うような方向になります。
この二つを分けて測定または計算するのは、レンズの収差が方向によって同じように現れるとは限らないためです。
例えば画面周辺では、放射方向の線は比較的はっきり再現できても、それと直交する線は少しぼやけることがあります。
その場合、MTFチャートではS線とM線の位置が離れます。
逆に二つの方向で似た再現性を持つレンズでは、S線とM線が近い位置を通ります。
つまりメリジオナルは、サジタルとは別方向からレンズの描写を確認するための情報です。
レンズの解像力そのものと、写真を見たときのシャープネスの違いについては、レンズ解像度とは?解像力・シャープネスとの違いと画質を引き出す撮影方法でも詳しく紹介しています。
S線とM線の差から方向による描写の違いを確認する
MTFチャートを見るときには、S線とM線それぞれの高さだけでなく、二つの線がどの程度近いかも確認します。
中央付近では二つの線がほぼ重なっていても、画面端へ進むにつれて離れていくことがあります。
これは、画面周辺では方向によって再現性に違いが出ていることを示しています。
特に細かな模様を見る高周波側のMTFでは、S線とM線の差が大きく見えるレンズがあります。
そのようなレンズでは、画面周辺の細かな線や模様を拡大したときに、方向によってシャープさが異なって見えることがあります。
一方、S線とM線が近い状態で高い位置を維持していれば、画面位置だけでなく模様の方向による差も比較的小さい傾向が読み取れます。
ただし、S線とM線が近いだけで、そのレンズの写真全体が優れていると判断することはできません。
両方とも低い位置で近い場合もあるためです。
まず曲線の高さを確認し、その後にS線とM線の間隔を見る順番が分かりやすくなります。
解像力以外の収差やボケまで含めてレンズ性能を見る場合は、レンズの光学性能とは?解像力・MTF・色収差・ボケの見方も参考になります。
MTFチャートでS線とM線を読む方法
- 最初に画面中央から周辺への変化を見る
- S線とM線が離れる場所を確認する
- 高い曲線と線の近さを同時に見る
最初に画面中央から周辺への変化を見る
MTFチャートを見るときには、最初からS線とM線だけを細かく追う必要はありません。
まず横軸を見ます。
一般的なMTFチャートでは、左端が光軸に近い画面中央で、右へ進むほど画面周辺になります。
曲線が左から右まで高い位置を維持しているなら、中央から周辺まで性能が落ちにくい傾向があります。
反対に左側では高いものの、右側へ進むにつれて大きく下がる場合は、中央に比べて周辺部でコントラストや細部の再現性が低下する傾向を読み取れます。
ポートレートでは四隅の解像力が最優先にならないことがありますが、風景や建築では画面端まで細部を残したい場合があります。
そのため同じMTFチャートでも、撮影目的によって見るべき位置が変わります。
まず中央から周辺までの大まかな曲線の動きを見て、その後にS線とM線を読み分けると理解しやすくなります。
MTFチャートを含めた複数サイトでのレンズ比較方法については、レンズの解像度を比較できるサイト3選 MTFと実写チャートの正しい見方で詳しく紹介しています。
S線とM線が離れる場所を確認する
次に確認するのが、S線とM線の間隔です。
画面中央ではほぼ同じ位置を通っていても、中間部や周辺部で二つの線が分かれることがあります。
その場合、その画面位置では方向による描写差が大きくなっていることが分かります。
例えば風景写真で木の枝や建物の細かな模様を画面端まで入れた場合、方向によって線の再現性が違って見える可能性があります。
星景撮影でも、画面周辺の点光源を見ると、中央とは異なる形に崩れることがあります。
S線とM線の差は、そうした周辺描写を見る材料の一つになります。
ただし、MTFチャートだけから実際の写真の見え方を完全に予測することはできません。
レンズには非点収差、コマ収差、色収差など複数の要素があり、それらが組み合わさって最終的な像になります。
そのため、S線とM線の差を確認したら、実写画像やレビューも一緒に見ると判断しやすくなります。
画面周辺に現れやすい色収差については、色収差とは?紫や緑のにじみが出る原因と撮影・補正方法でも詳しく解説しています。
高い曲線と線の近さを同時に見る
理想的に見えるMTFチャートは、S線とM線の両方が高い位置を維持し、さらに二つの線が近い状態です。
この場合、中央から周辺まで高いコントラストや細部の再現性を維持しながら、方向による差も比較的小さい傾向があります。
一方、S線とM線が非常に近くても、両方の曲線が大きく低下していれば、高い解像性能を示しているとは言えません。
反対に非常に高い曲線でも、S線とM線が大きく離れている場合は、方向による描写差があることが分かります。
そのため、
「曲線が高いか」
「周辺まで高い状態を保っているか」
「S線とM線が近いか」
という三つを組み合わせて見ると、MTFチャートから得られる情報が増えます。
さらに実際のレンズ選びでは、開放F値や焦点距離、重量、AF、ボケなども確認します。
MTFチャートはレンズの一面を見る資料であり、総合順位表として使うものではありません。
画質を構成する複数の要素については、写真の表現力を高める画質の本質とは なめらかな階調と正確な色再現の力も参考になります。
10本/mm・30本/mmとS線・M線の関係
- 10本/mmでは主にコントラストの再現を見る
- 30本/mmでは細かな描写を見る
- 同じS線・M線でも周波数によって動きが変わる
10本/mmでは主にコントラストの再現を見る
CanonなどのMTF特性図では、10本/mmと30本/mmといった異なる細かさの線を使ってレンズの特性が示されます。
10本/mmは比較的粗い模様です。
細かなディテールそのものより、被写体の明暗差をどれだけはっきり再現できるかを見るときの参考になります。
10本/mmのS線とM線が中央から周辺まで高い位置を維持していれば、写真全体のコントラストを保ちやすい傾向があります。
実際の写真では、輪郭の力強さやメリハリといった印象に関係します。
一方、10本/mmだけが高ければ細かな模様まで完全に解像できるという意味ではありません。
細部を見るには、さらに細かな模様を使う30本/mm側も確認します。
まず10本/mmで写真全体のコントラスト傾向を見て、その後30本/mmで細部を見ると、MTFチャートを段階的に理解できます。
F値を変えたときにコントラストや解像感がどのように変化するかは、F値とは?絞りで変わる明るさ・ボケ・被写界深度と設定の目安をわかりやすく解説でも詳しく紹介しています。
30本/mmでは細かな描写を見る
30本/mmは、10本/mmより細かな模様を使ってレンズの再現性を確認します。
髪の毛、鳥の羽毛、木の枝、布地、細かな文字、建物のディテールなどをどこまで明瞭に描写できるかを考えるときに参考になります。
MTFチャートでは、一般的に30本/mmの曲線は10本/mmより低い位置を通りやすくなります。
細かな模様ほど、レンズが高いコントラストを維持することが難しくなるためです。
さらに30本/mmでは、画面周辺でS線とM線の差が目立つことがあります。
中央では両方とも高くても、周辺へ進むと一方が大きく低下することがあります。
その場合、画面端の細かな模様では方向によって再現性が異なることが読み取れます。
解像力を重視する場合は、単に30本/mmの最高値だけを見るのではなく、中央から周辺までの変化とS線・M線の両方を確認します。
単焦点レンズで解像力を引き出す考え方については、単焦点レンズで引き出す本来の画質性能 解像力とボケ味の極限を体感するも参考になります。
同じS線・M線でも周波数によって動きが変わる
MTFチャートでは、一つのサジタル線と一つのメリジオナル線だけを見るわけではありません。
10本/mmのS線とM線、30本/mmのS線とM線というように、模様の細かさごとに複数の曲線があります。
そのため、あるレンズでは10本/mmのS線とM線が非常に近くても、30本/mmでは周辺へ進むにつれて差が大きくなることがあります。
これは、粗い模様では方向による差が少なくても、細かな模様では差が現れやすいことを示しています。
反対に30本/mmまでS線とM線が高い位置でそろっているレンズなら、画面周辺の細かなディテールまで安定した再現性を持つ傾向があります。
風景や建築、商品撮影など画面全体の細部を重視する場合は、こうした高周波側の周辺特性が参考になります。
ポートレートでは中央から中間部を使うことが多いため、四隅の30本/mmだけでレンズを判断する必要はありません。
撮影目的によって見るべき部分を変えることが、MTFチャートを実用的に使う方法です。
レンズの比較サイトで測定条件をそろえて結果を見る方法については、レンズの解像度を比較できるサイト3選 MTFと実写チャートの正しい見方も参考になります。
S線とM線を実際のレンズ選びにどう使うか
- 風景や建築では周辺まで確認する
- ポートレートでは中央から中間部を重視する
- MTFチャートと実写を組み合わせる
風景や建築では周辺まで確認する
風景や建築では、画面中央だけでなく四隅まで細かな情報を残したいことがあります。
遠景の木々、建物の窓、道路、岩肌などが画面全体へ広がるためです。
このような撮影では、MTFチャートの右側まで確認します。
30本/mmのS線とM線が周辺まで高い位置を維持しているか、二つの線が大きく離れていないかを見ると、画面端の細かな描写を判断する材料になります。
広角レンズでは特に画面周辺の光線が厳しい角度で入るため、中央と四隅で描写差が現れることがあります。
一方、開放では周辺が低くても、一段または二段絞ることで改善するレンズもあります。
実際に風景でF8を多用するなら、開放時のMTFだけを見るより、絞った状態の性能も確認します。
風景撮影では解像力だけでなく、歪曲、逆光耐性、色収差なども重要です。
写真全体を高精細に仕上げる方法については、写真の撮り方を基本から解説|構図・F値・シャッタースピード・ISO・ピントの使い方も参考になります。
ポートレートでは中央から中間部を重視する
ポートレートでは、風景とはMTFチャートの見方が変わります。
人物を画面中央から少し外した位置へ置くことが多く、四隅には背景が来る場合が多いためです。
背景を大きくぼかしているなら、四隅の最高解像力は写真の仕上がりへ直接影響しないことがあります。
そのため、ポートレート用レンズでは、開放付近の中央から中間部までのS線とM線を見る方が実用的です。
F1.4やF1.8で中央部の30本/mmが高く、人物の目や髪をしっかり描写できれば、ポートレートでは大きな価値があります。
一方で背景ボケの滑らかさ、軸上色収差、逆光時のコントラストなども重要です。
MTFチャートの四隅だけを見て「このレンズは低性能」と判断すると、実際の用途と評価がずれることがあります。
自分がどこへ被写体を置き、どのF値で撮影するのかを先に考え、その条件に近い部分を見ることが重要です。
中望遠や単焦点レンズで背景を整理する考え方については、被写体との距離で変わる写真表現でも詳しく紹介しています。
MTFチャートと実写を組み合わせる
MTFチャートはレンズの特徴を知るための有力な資料ですが、実際の写真そのものではありません。
S線とM線の動きを見れば、方向による解像性能の違いや周辺での変化を確認できます。
しかし写真には、色、ボケ、逆光、フレア、色収差、歪曲、AF精度など、MTFチャートだけでは分からない要素があります。
そのためレンズ選びでは、
メーカーのMTFチャートを見る。
第三者サイトの測定結果を見る。
実写チャートを見る。
実際の作例を見る。
という順番で確認すると、数字と写真を結び付けやすくなります。
特にS線とM線が周辺で大きく離れている場合には、実写チャートの四隅を見て、実際にどのような違いとして現れているのかを確認すると理解しやすくなります。
逆にMTFチャートでは差が見えても、通常の写真サイズではほとんど気にならない場合もあります。
数値を目的にするのではなく、実写を理解するための材料としてMTFチャートを使うことが重要です。
実写と測定値を組み合わせたレンズ比較については、レンズの解像度を比較できるサイト3選 MTFと実写チャートの正しい見方で詳しく紹介しています。
まとめ
サジタルとメリジオナルは、MTFチャートでレンズの描写を方向別に確認するための考え方です。
サジタルは画面中心から外側へ向かう放射方向、メリジオナルはそれと直交する方向を基準にしています。
MTFチャートでは、それぞれS線、M線として表示されることがあります。
まず見るべきなのは、曲線そのものの高さです。
中央から周辺まで高い位置を維持していれば、その模様の細かさに対して高いコントラストを維持しやすいことが分かります。
次にS線とM線の間隔を確認します。
二つの線が近ければ方向による差が比較的小さく、周辺へ向かって大きく離れる場合には方向による再現性の違いが大きくなっていることが読み取れます。
さらに10本/mmと30本/mmでは意味が異なります。
10本/mmでは比較的粗い模様のコントラスト、30本/mmでは細かなディテールの再現性を見る材料になります。
同じレンズでも、10本/mmではS線とM線が近く、30本/mmでは周辺で差が広がることがあります。
そのためMTFチャートを見るときは、
曲線の高さ
中央から周辺への変化
S線とM線の間隔
10本/mmと30本/mmの違い
を順番に確認すると理解しやすくなります。
そして、MTFチャートだけでレンズの優劣を決める必要はありません。
ポートレートなら中央から中間部、風景なら四隅まで、野鳥なら望遠端の中央など、撮影用途によって必要な性能は変わります。
S線とM線は、レンズの性能を一つの数字で順位付けするためのものではなく、どの場所でどの方向の描写が変化するのかを理解するための情報です。
実写画像や第三者サイトの測定結果と組み合わせることで、MTFチャートをレンズ選びへ実際に生かせるようになります。



