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EF-Sレンズの「S」が示す設計思想

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EF-Sレンズの「S」が示す設計思想 EF-Sレンズ
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EF-Sレンズの「S」が示す設計思想

キヤノンのEF-Sレンズは、2003年にAPS-Cサイズのデジタル一眼レフ(EOS 300Dなど)向けに登場しました。名称の「EF」は従来からの「Electro-Focus(電子制御式マウント)」を指しますが、末尾の「S」には「APS-C専用設計」を象徴する意味が込められています。その具体的な解釈は「小さなイメージサークル(Small Image Circle)」や「ショートバックフォーカス(Short Back Focus)」などと説明され、APS-Cセンサーに最適化した光学設計を実現するための技術コンセプトを表現しています。キヤノンはこの「S」の名称を通じて、APS-C専用にレンズを設計することで「小型・軽量化」「低コスト化」を達成するという狙いを示しました。本記事では、EF-Sレンズの設計思想を多角的に解説し、「S」に込められた意味が技術的にどのように具現化されているのかを詳しく探ります。

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1. EF-Sレンズの命名背景:「S」に込められた意味と技術的意図

EF-Sレンズが登場した背景には、APS-Cセンサー搭載機の普及があります。キヤノンはEFマウント(フルサイズ対応)とは別に、APS-Cセンサー専用の光学系を用意する必要に迫られました。そこで「S」の文字を付加することで、APS-C向け専用設計のレンズ群であることを明示しました。この「S」は公式には一貫した定義を示していませんが、一般には以下のように説明されます。

Short back focus(ショートバックフォーカス)

初期の技術説明では、APS-C用カメラのミラーサイズが小さくなるため、レンズ後端(リアエレメント)をセンサーにより近づける設計が可能になる点を強調していました。後群レンズをミラーボックス内に深く入り込ませることで、広角レンズの設計を容易にし、レンズ全体の小型化や明るい開放値の実現を目指します。開発当初は「S=Short back focus」を重視し、これにより広角ズームレンズを軽量・安価に作れる点がアピールされました。

ショートバックフォーカス(Short Back Focus)とは
ショートバックフォーカスを徹底解説。フランジバックとの違い、ミラーレスと一眼レフの制約、広角設計と大口径の利点、RF・Z・E/FE・X・K各マウント比較、周辺画質や入射角、短い理由、アダプター互換まで整理し一記事で設計思想を掴む。

Small image circle(小さなイメージサークル)

その後、特にEF-Sレンズの設計が進むにつれて、「S」はセンサーサイズに合わせた「小さいイメージサークル」を意味するとも解釈されるようになりました。APS-Cセンサーに必要な画角だけをカバーすることで、製造コストとサイズを抑えられる点を強調したものです。キヤノンの技術レポートやFAQでも、EF-Sレンズの特徴として「APS-Cサイズ専用の小型イメージサークル」「短くしたバックフォーカス」が挙げられています。

要するに、EF-Sの命名にはAPS-Cに適合させるための光学的工夫が込められています。小さなイメージサークルにより光学系をコンパクトにし、ショートバックフォーカスでレンズをボディ内部に潜り込ませることで、従来のEFレンズにはない軽量・小型・低価格なレンズを実現しています。これは新たな市場(エントリー~中級ユーザーや旅行・スナップ用途)をターゲットにした戦略的な設計思想といえます。

小さなイメージサークル(Small image circle)とは
小さなイメージサークルを徹底解説。必要径とセンサーサイズ、APS-C/MFT/1型の利点と制約、ケラレ・周辺減光、設計思想、互換とアダプター運用、フルサイズ比較、用途別の選び方まで整理。代表的なレンズ例と失敗しない購入ポイントも網羅。

2. ショートバックフォーカス設計の概要:EFマウントとの差異

EF-Sレンズの最大の特徴は「バックフォーカス(マウント面からセンサーまでの距離)を短くできる」点です。APS-C一眼レフではフルサイズ機よりミラーボックスが小型化されるため、レンズ後端がより深くカメラ本体側に入り込む余地があります。具体的には、従来のEFレンズではレンズの後群レンズがミラーと干渉しないようバックフォーカスを十分に長く取る必要がありました。EF-Sではこの制約が緩和され、後群レンズをセンサーに近づけることが可能になります。
この設計によって、特に広角寄りのレンズで効果が大きく現れます。通常のEF広角ズームではレトロフォーカス設計(バックフォーカス長め)が必須ですが、EF-Sではそれを緩和できます。結果として、レンズ構成枚数を減らしたり、非球面レンズを効果的に配置したりすることで、広角画角ながら従来より短い全長で設計できるようになりました。また、バックフォーカスを短縮することでレンズの最終面がセンサーに近づき、光学的に素直な収差補正が可能になり、解像力や湾曲収差低減に寄与します。
機械的な面では、EF-S専用ボディにはレンズ後端の突起を収容するための「突起用凹み」がマウント内側に設けられ、さらに実際のレンズ側には突起ガード用のリング(樹脂やゴム製)を装備しています。これによりフルサイズ機へ誤装着できないよう物理的に防止しつつ、APS-C機ではレンズを深く挿入できます。光学的・機械的にこのショートバックフォーカス設計が取り入れられているのが、EF-Sレンズの大きな特徴です。

3. APS-C専用最適化の狙い:ミラー・イメージサークル・ボディ設計

EF-Sレンズは「APS-Cセンサー専用」という前提で設計されています。APS-Cセンサーはフルサイズの約1/2.5~1/3程度の面積しかなく、それに伴いイメージサークル(レンズがカバーする円形の投影光)は小さくて済みます。小さなイメージサークルで済むため、レンズはフルサイズ用EFレンズよりもコンパクトに光学系を構成できます。これにより重量が減り、価格も抑えられます。
また、APS-Cボディはミラーボックス自体が小型です。たとえば、APS-C一眼レフのミラーはフルサイズ機と比べて直径が小さく、ミラーアップ時のクリアランスも小さくて済みます。この余裕を利用して、前述のとおりバックフォーカスを短くできる設計が可能となります。逆にフルサイズ機ではミラーが大きいため、レンズが深く入り込むとミラーに干渉してしまいます。したがって、EF-SレンズはAPS-C機専用設計とすることで、この機械的制約をなくし、思い切った光学設計を実現しています。
さらに、APS-Cカメラは一般的にボディ自体も小型・軽量に作られており、扱い易さが重視されます。そこでレンズもそれに合わせた大きさ・重さに抑えることで、システム全体で「軽快な撮影」を実現できるように設計されています。APS-C専用機の多くはエントリークラスであり価格も抑えられるため、そこに見合うコストパフォーマンスを追求したレンズ設計思想が背景にあるのです。

4. 「軽量・小型・安価」指向:EF-Sによって可能になった製品設計の変化

EF-Sレンズの登場により、キヤノンはAPS-C機向けにこれまでにない小型軽量設計が可能になりました。これは具体的に以下の効果をもたらしました。
軽量化:従来のEF広角ズームと比べ、EF-Sでは口径を小さく絞り高も控えめにできるため、レンズ硝材(ガラス)の量が減り軽量化できます。多くのEF-Sレンズでは樹脂製のバレルやマウントを採用し、金属パーツを減らすことでさらに軽量化しています。たとえば、EF-S 18-55mm F3.5-5.6 IS STMはレンズ全長約69mm、質量約205g(旧型は210g)というコンパクトさで、従来のEF 28-70mmと比べて圧倒的に小型です。
小型化:APS-C専用のイメージサークルに合わせて設計することで、無駄な部分を排除できます。またショートバックフォーカスにより鏡筒長さも短縮でき、手持ち時の取り回しが良くなります。広角側でF3.5-4.5と絞りをやや暗めに設計するキットズーム(例:EF-S 18-135mm F3.5-5.6 IS STM)など、無理のない仕様にすることでズーム全域を小型に収めています。
コストダウン:EF-SレンズはEFレンズに比べて高級仕様(防塵防滴やLレンズ級の超低分散・大口径ガラスなど)を控え、コストパフォーマンスを重視しています。構成レンズ枚数を抑えたり、プラスチックモールド非球面レンズを多用したり、簡易なマウントメカを採用したりすることで生産コストを下げています。実際、EF-Sレンズはフルサイズ対応EFレンズと同じ焦点距離レンジでも1万円~3万円台の価格帯が多く、入門者向けに手頃な価格帯で高画質を提供しています。
これらの変化により、APS-C機ユーザーは持ち運びしやすくて価格的にも優しいレンズが手に入るようになり、旅行やスナップ撮影のしやすさが向上しました。キヤノンはEF-S専用レンズ群によって、APS-C機の使い勝手を大きく広げる戦略を実現したといえます。

5. EF-Sレンズの構造と部品:後群位置・マウントガード・電子接点の実装例

EF-Sレンズは具体的にどのような構造になっているか見てみましょう。多くのEF-Sレンズでは、後部レンズ(後群)がマウント面近くに配置され、EFレンズよりも深くボディ側に突き出しています。また、レンズ後端のマウント部には保護用の樹脂ガードリングまたはゴムパッキンが装着されており、誤ってフルサイズカメラに装着しようとすると傷がつかないようになっています。マウント部の絞り表示窓付近には、通常EFレンズでは赤いドット印がありますが、EF-Sレンズには白い四角(EF-Sアライメントマーク)が付いており、対応ボディとの整合が一目でわかるようになっています。

CanonのEFレンズ(左)とEF-Sレンズ(右)の比較例。EF-Sレンズ側にはマウント部に保護リングと白い四角いマウント位置表示が見られる。

図のように、EF-Sレンズ(右)のマウント周りにはゴムリングが見え、赤いドットではなく白い四角いマークが付いています。これはEF-S専用設計である証拠で、レンズ自体にも「U」(APS-C)を示すマークが付けられる場合があります。電子接点の仕様自体はEFと同じ規格で、オートフォーカスや手ブレ補正(IS)用の駆動・制御信号はEFレンズと同様に送受信します。違いと言えば、EF-Sレンズでは比較的新しいステッピングモーター(STM)やナノUSMを搭載しやすいスペースを持つ設計が多く、小型のAF駆動系や手ブレ補正ユニットを内蔵しています。例えば、軽量広角ズームのEF-S 10-18mm F4.5-5.6 IS STMでは、ガラス非球面レンズやコンパクトなSTMフォーカスモーター、薄型のISユニットを採用し、従来のAPS-Cレンズよりもさらに全長を短くできています。
要約すると、EF-Sレンズではレンズ後端の突出/ガードリング、白いマウント位置マーク、APS-C専用設計の光学配置などがハードウェア面での実装ポイントです。これらが「S」設計の具体例として機能し、外観や装着方法で他のEFレンズと明確に区別されています。

6. 初期の「S」解釈と受容の変遷

EF-Sレンズ開発当初、関係者間では「S=ショートバックフォーカス」という解釈が主に語られていました。実際、2003年に発表されたEF-S初期モデル(EF-S 18-55mmなど)では、広角系のレンズ設計でバックフォーカスを大幅に短縮できる点が技術的なアピールポイントとされました。当時のプレスやユーザーコミュニティでも、この点がEF-Sの意義として説明されることが多かったのです。
しかし年月を経ると、後発のEF-Sレンズの中には必ずしも極端なショートバックフォーカス設計を採用しないものも現れました。例えばEF-S 24mm F2.8などでは、バックフォーカスを短くする必要性が低い単焦点レンズもあります。こうした流れの中で、キヤノンは公式FAQなどで「SはSmall image circleの意」という表現を使うようになりました。つまり「小さなイメージサークル」という解釈が前面に出るようになり、EF-Sレンズ群全体がAPS-C専用であることを明確に示す名称となったのです。
市場での受容については、EF-Sレンズは登場当初からAPS-C機ユーザーに好評でした。特にキットレンズの18-55mmや安価な単焦点レンズは、初心者向けに非常に手頃な選択肢となり、EF-Sマウントの認知度を高めました。初期には「Sの意味」を巡って議論もありましたが、次第に「APS-C専用レンズ」という広義で受け入れられるようになり、カメラ店やカタログでもEF-Sの説明はAPS-C用として統一されています。現在では、技術的細部よりも「APS-C用に最適化されたレンズラインナップ」という理解が主流となっています。

7. EF-SとEFレンズの設計思想の違い・補完関係

EF-SレンズとEFレンズは、互いに補完し合う関係にありますが、基本設計思想には以下のような違いがあります。
対応ボディと互換性:EFレンズはフルサイズ機・APS-C機ともに装着可能で、広範な互換性を持ちます。一方、EF-Sレンズは物理的にAPS-C機にしか装着できません(マウント形状とガードリングによる制限)。そのため、フルサイズ機へステップアップ予定のユーザーにはEFレンズを勧める場合がありますが、APS-C機ユーザーにはEF-Sの方が得な面があります。
レンズラインナップの位置付け:EFレンズには高性能なLレンズや超望遠、高性能ズームが豊富に揃い、プロからハイアマチュア向けの選択肢が充実しています。一方、EF-Sレンズは主にエントリーから中級者向けで、標準域のズームや広角ズーム、手頃な単焦点が多く、価格も手頃です。EF-SにはLクラスレンズは設定されていませんが、コストパフォーマンス重視の設計が行われています。
光学設計のフォーカス:EFは広範囲の焦点距離や大口径でも高性能を追求しますが、EF-SはAPS-Cならではの「高倍率ズームでもコンパクト」「手ぶれ補正を小型化」といった実用重視の設計が多いです。また、EFレンズは大口径での明るさや画質を優先するため高価になりがちですが、EF-Sレンズは実用範囲内での解像力やボケ味を確保しつつ、軽量・安価であることを最優先しています。
両者の補完:APS-C機ユーザーはEF-Sレンズで日常~旅行撮影に十分なラインナップを得られる一方、より高画質や大口径が必要な場合はEFレンズをAPS-C機でも使用できます(画角は1.6倍にクロップされます)。逆にフルサイズ機ユーザーがAPS-C専用の視野で撮りたい場合は、むしろEF-Sレンズは装着不可ですが、似た画角のEFレンズを選ぶことで対応します。キヤノン全体としては、EF-Sがエントリー層のニーズを受け持ち、EFがプロ志向のニーズを満たすという棲み分けがなされています。

8. EF-Sと他社APS-C専用マウントとの思想比較

APS-Cセンサーを採用するメーカーはキヤノン以外にも多く、各社はそれぞれ異なる方式でAPS-C専用レンズを展開しています。

ニコン(DXレンズ)

ニコンの一眼レフではマウントそのものを変えずに、DXフォーマット専用レンズを「DXレンズ」として設定しています。DXレンズはAPS-C(DX)機に装着するとAPS-C専用設計のメリットを活かせますが、フルサイズ(FX)機にも装着可能です。ただしその場合はイメージサークルが小さいため周辺はケラレるか、自動的にDXモードで撮影されます。キヤノンのEF-Sとは違い、物理的に装着できる点では互換性重視ですが、光学性能上はAPS-C専用設計となっています。

ソニー(E/FEマウント)

ソニーのミラーレス一眼(αシリーズ)では、最初からAPS-C専用(EマウントAPS-C)とフルサイズ対応(FEマウント)の区別はなく、同じEマウントシステムでAPS-C用とフルサイズ用のレンズを発売しています。一部のAPS-C専用レンズは「Eマウントレンズ」と呼ばれ、フルサイズ機に装着すると自動的にクロップします。ソニーはマウントを共通にすることで装着互換性を保ちつつ、レンズ設計時にイメージサークルで差別化している点が特徴です。

その他(富士フイルムX、ペンタックス DAなど)

富士フイルムXマウントやペンタックスDAマウントもAPS-C専用として設計されており、別途フルサイズマウントを設ける方式や、DAレンズ(APS-C専用)とFAレンズ(35mmフィルム/フルサイズ)で棲み分ける方式があります。

これらを総合すると、キヤノンのEF-Sは「別仕様のAPS-C専用サブマウント」というアプローチであり、他社と比べてユーザーに装着間違いのリスクを減らす一方で互換性を犠牲にしています。ニコンやペンタックスは同一マウントでAPS-C/フルの混在が可能ですが、キヤノンは明確に区別します。ソニーは統一マウントで先進的ですが、EF-SはAPS-Cに特化することでより大きな絞りや光学性能向上よりも「小型・低価格」を重視する設計思想になっています。各社の手法には一長一短がありますが、EF-SはAPS-C分野での用途特化とコストパフォーマンスを最大化する形で差別化されたと言えます。

9. 「S」の意味を支えた技術的進化

EF-S設計の利点を生かすには、レンズの小型化を支える技術の進化が欠かせません。ここ数十年でキヤノンはAF駆動系や手ブレ補正などの小型高性能化を進め、EF-Sレンズにも積極的に導入しました。
オートフォーカス駆動モーターの小型化:初期のEF-Sレンズ(2000年代中盤)はリングUSMやマイクロUSMが使われていましたが、後にSTM(ステッピングモーター)やナノUSMなどの小型モーターが登場しました。これにより駆動部の質量を小さく抑えつつ高速・静音なAFを実現できます。特に小型単焦点やキットズームではステッピングモーター化が進み、より小型なレンズ筐体が可能になっています。
手ブレ補正(IS)ユニットの小型化:光学式手ブレ補正機構も回路や駆動系の小型化が進み、EF-Sクラスの小型レンズにも搭載可能になりました。初期のISユニットは大型でしたが、現在は薄型化してレンズヘッド部に組み込めるようになり、10-18mm F4.5-5.6 IS STMのような超広角ズームにもISを搭載しています。これにより小型レンズでも高い手ブレ耐性を持たせることができました。
光学設計技術の進歩:非球面レンズの製造技術が進み、大径の非球面レンズを従来より低コストで生産できるようになりました。これによって広角を維持しつつレンズ枚数を抑える設計が可能となり、レンズ全長短縮に貢献しています。また、特殊低分散ガラスの改良や高屈折率ガラスの導入も、薄いレンズで高性能を実現するのに役立っています。
筐体・材料の工夫:樹脂成形技術の発展により、強度を保ちながら金属部品を減らした筐体設計が進みました。例えばマウント部には耐久性ある特殊樹脂が用いられることが多く、レンズ全体の軽量化と耐久性向上に寄与しています。また、マウント内の電子回路も微小化し、多機能化しても厚みを抑えられるようになっています。
これらの技術進化により、EF-S設計はますます洗練されました。AF駆動系やIS機構の小型化は、EF-Sレンズの軽快さと高速性を支え、さらに高い画質を維持したまま「S」の設計思想を実現しています。

10. RFマウントにおける「S的思想」の継承・変化

近年キヤノンはミラーレスカメラ用の新マウント「RFマウント」を展開しましたが、そこでAPS-C機向けとしてRF-Sレンズ群を新設しています。RFマウントはもともとバックフォーカスが短く、大口径(内径54mm)を活かした設計が特長ですが、RF-SレンズはAPS-C専用の小型軽量設計として位置付けられています。RF-Sレンズにも「ショートバックフォーカス」と「小型化」という要素は継承されており、公式にはRFとRF-Sの違いはイメージサークルの大きさにあるとされています。
具体的には、EOS R7/R10などAPS-C機用としてRF-Sレンズが開発され、イメージサークルをAPS-Cに限定することでRFレンズ(フルサイズ兼用)に比べてさらに小型・軽量化できると説明されています。また、RFマウント全体では既にショートバックフォーカス前提の設計になっているため、RF-Sでも同様の恩恵を受けられます。したがって、RF-Sレンズには「S」の思想、すなわちAPS-C専用のコンパクト設計が引き続き受け継がれています。
一方で、EF-Sとは異なりRFマウントではフルサイズ機にもAPS-C用レンズを物理的に装着できますが、撮像範囲は自動的にクロップされます。つまり、機構的な互換性は保たれつつ、レンズ設計では「APS-Cに最適化した小型設計」というコンセプトが明示されています。この点で、EF-S時代の「物理的に装着できないようにする」という方式から若干変化しました。しかし根底にある「APS-C機の機能を最大化しつつ小型化する」という思想自体はRF世代にも継承されており、RF-Sレンズの存在がそれを示しています。

まとめ

キヤノンのEF-Sレンズにおける「S」の一字には、APS-C専用に最適化した光学・機械設計のコンセプトが凝縮されています。小さなイメージサークルとショートバックフォーカスにより、レンズの小型化・軽量化・低コスト化を実現し、APS-Cセンサー搭載機のユーザー層に新たな使い勝手を提供してきました。EF-S設計はEFレンズとは異なる方向性を持ちながらも、バランスよく互いを補完する関係にあります。さらに、最新のRFマウントにおいてもRF-Sレンズとして「APS-C用レンズ」の思想は脈々と受け継がれています。今後も、EF-S(およびRF-S)的な設計コンセプトは、センサーサイズやユーザー層に応じたレンズ開発で重要な役割を果たし続けるでしょう。

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