MTFの10本/mmと30本/mmの違いとは?コントラスト・解像力とグラフの見方
レンズの性能を調べてMTF特性図を見ると、「10本/mm」「30本/mm」という数字が出てきます。
数字だけを見ると、30本/mmの方が10本/mmより大きいため、「30本/mmの方が性能が高い」「30本/mmだけ見ればレンズの解像力が分かる」と考えやすいところです。
しかし、10本/mmと30本/mmはレンズの性能を順位付けしている数字ではありません。
1mmの範囲にどれくらい細かな明暗パターンを配置して、そのコントラストをレンズがどこまで再現できるかを見るための空間周波数を表しています。
10本/mmは比較的粗いパターン、30本/mmはより細かなパターンです。
そのため、10本/mmは写真全体のコントラストやメリハリを見るときの参考になり、30本/mmは細かなディテールをどこまで再現できるかを見るときの参考になります。
MTFを見るときには、この二つを別々の成績として見るより、「低い空間周波数と高い空間周波数の両方で、レンズがどのような性格を持っているか」を確認することが重要です。
この記事では、10本/mmと30本/mmが何を意味しているのか、MTFグラフではどこを見るのか、サジタル・メリジオナルとの組み合わせをどう読むのか、実際のレンズ選びではどこまで重視すればよいのかを詳しく解説します。
MTFの10本/mmと30本/mmは何を表しているのか
- 本/mmは空間周波数を表している
- 10本/mmでは主にコントラストを見る
- 30本/mmでは細かな解像力を見る
本/mmは空間周波数を表している
MTF特性図に書かれている「10本/mm」「30本/mm」の「本/mm」は、1mmあたりにどれくらい細かな明暗パターンが存在するかを示す空間周波数です。
10本/mmは1mmの中に比較的粗いパターンが並んでいる状態、30本/mmはそれより細かなパターンが並んでいる状態と考えると理解しやすくなります。
レンズで被写体を撮影すると、被写体側に存在していた完全な明暗差を、そのまま100%撮像面へ伝えられるわけではありません。
非常に細かな模様になるほど、黒と白の境界が少しずつ曖昧になり、コントラストが低下します。
MTFは、その明暗差をレンズがどの程度維持できるかを見るものです。
グラフの縦軸が1.0に近いほど元のコントラストを高く維持し、値が下がるほど明暗差が失われていることを表します。
この仕組みそのものを理解しておくと、単純に「MTFが高いレンズほど高性能」と見るより、レンズのどの部分が強いのかを読み取れるようになります。
MTFとレンズ解像力の関係をさらに詳しく確認する場合は、MTF50とは?レンズの解像力を数値で比較するときの見方も参考になります。
10本/mmでは主にコントラストを見る
10本/mmは30本/mmと比較すると低い空間周波数です。
比較的粗い模様の明暗差をレンズがどの程度維持できるかを見るため、写真全体のコントラストや輪郭の力強さを考えるときの参考になります。
例えば、大きな文字、建物の輪郭、人物の顔の立体感、太い木の枝などは、非常に細かなディテールだけで構成されているわけではありません。
写真を縮小して画面全体を見るときにも、こうした比較的大きな明暗差が写真の印象を大きく左右します。
10本/mmの曲線が中央から周辺まで高い位置を維持しているレンズでは、画面全体でコントラストを保ちやすい傾向を読み取れます。
このため、写真を見た瞬間に感じる「メリハリ」「ヌケ」「力強さ」といった印象を見るときには、10本/mmの曲線が重要になります。
もちろん写真の見え方はMTFだけで決まりません。
逆光、色収差、現像処理、ピント精度なども関係します。
MTFを含めたレンズ全体の性能については、レンズの光学性能とは?解像力・MTF・色収差・ボケの見方で詳しく整理しています。
30本/mmでは細かな解像力を見る
30本/mmは、10本/mmよりも高い空間周波数です。
より細かなパターンのコントラストをどこまで維持できるかを見るため、細部の再現性や解像力を考えるときの重要な情報になります。
例えば、鳥の羽毛、人物の髪の毛、布地の織り目、遠景の木の枝、建築物の細かな模様などは、高い空間周波数を多く含んでいます。
30本/mmの曲線が高いレンズでは、こうした細かな情報を高いコントラストで再現できる傾向があります。
高画素カメラを使用して大きくトリミングする場合にも、細部の再現性は重要です。
特に野鳥撮影などでは、被写体を画面中央付近に置いて後から切り出すことがあるため、中央部の30本/mmの特性を見る意味があります。
一方で、30本/mmだけが高ければ写真全体が必ず魅力的に見えるというものでもありません。
非常に細かな情報を残せても、低い空間周波数側のコントラストが低ければ、写真全体では柔らかく感じる場合があります。
解像度、解像力、シャープネスの違いについては、レンズ解像度とは?解像力・シャープネスとの違いと画質を引き出す撮影方法で詳しく解説しています。
MTFグラフで10本/mmと30本/mmを読む方法
- 最初に曲線の高さを見る
- 中央から周辺への低下を見る
- 10本/mmと30本/mmを組み合わせて見る
最初に曲線の高さを見る
MTFグラフを見るときは、最初に曲線が縦軸のどの位置を通っているかを確認します。
一般的なMTFグラフでは、縦軸は0から1までで示され、1に近いほどコントラストを高く維持しています。
10本/mmの曲線が高い位置を通っていれば、比較的粗い模様に対するコントラスト特性が高いことを読み取れます。
30本/mmが高い位置を通っていれば、より細かな模様でも高いコントラストを維持できる傾向があります。
ここで見るべきなのは、一つの数値だけではありません。
例えば中央では10本/mmも30本/mmも非常に高いものの、周辺へ向かうと30本/mmだけが大きく下がるレンズがあります。
この場合、中央部では細部まで高く再現しながら、画面端では細かな描写が低下する傾向を読み取れます。
反対に、最高値は突出していなくても、中央から周辺まで曲線がほぼ水平に近いレンズもあります。
こうした違いを見ることが、MTFグラフを利用する大きな意味です。
実測値と実写を組み合わせて確認する方法は、レンズの解像度を比較できるサイト3選 MTFと実写チャートの正しい見方で紹介しています。
中央から周辺への低下を見る
MTFグラフの横軸は、一般的に画面中心から像高方向へどれくらい離れているかを示します。
左端が画面中央で、右へ進むほど画面周辺へ移動します。
そのため、グラフを見るときには曲線の最も高い場所だけではなく、中央から端へどのように変化しているかを確認します。
中央では30本/mmが非常に高いものの、周辺へ向かうにつれて急激に低下する場合、そのレンズは中央解像力を重視した性格を持っている可能性があります。
ポートレートや野鳥撮影では、主被写体を中央から中間部へ置くことが多いため、このような特性でも実用上大きな問題にならない場合があります。
風景や建築では画面の四隅まで細かな情報が存在するため、周辺まで30本/mmが高いことに意味があります。
つまり「右端まで高い方が常に優れている」と考えるより、自分がどこにピントを合わせ、どの部分の解像力を必要としているかと結び付けて読みます。
画質を構成する要素を広く考える場合は、写真の表現力を高める画質の本質とは なめらかな階調と正確な色再現の力も参考になります。
10本/mmと30本/mmを組み合わせて見る
10本/mmと30本/mmは、片方だけを見るより、二つを組み合わせて読むことでレンズの性格が分かりやすくなります。
10本/mmが高く、30本/mmも高い状態を中央から周辺まで維持していれば、コントラストと細かな描写の両方を保ちやすいレンズと考えられます。
10本/mmは高いものの30本/mmが低い場合には、写真全体はメリハリがあってシャープに感じても、等倍で見ると細かなディテールの分離はそれほど高くない可能性があります。
反対に30本/mmが比較的高くても、低周波側のコントラストが十分でなければ、細部の情報は存在していても全体として柔らかな印象になることがあります。
ここが「解像力」と「見た目のシャープさ」が完全に同じではない理由の一つです。
また、MTFはあくまで特定条件での光学特性を示す情報です。
色のにじみが発生すると、細部の輪郭が低下して見える場合があります。
こうした解像感へ影響する色収差については、色収差とは?紫や緑のにじみが出る原因と撮影・補正方法で確認できます。
10本/mm・30本/mmとS線・M線の関係
- それぞれにサジタルとメリジオナルがある
- S線とM線の間隔を見る
- 30本/mmでは方向差が見えやすい
それぞれにサジタルとメリジオナルがある
MTFグラフが複雑に見える理由の一つが、10本/mmと30本/mmだけでなく、それぞれに複数の曲線が描かれていることです。
代表的なのがサジタルとメリジオナルです。
サジタルは画面中心から外側へ向かう放射方向、メリジオナルはそれと直交する方向の模様を基準としてレンズの再現性を見ます。
つまり10本/mmには10本/mmのS線とM線があり、30本/mmには30本/mmのS線とM線があります。
最初から4本すべてを同時に理解しようとすると分かりにくくなります。
まず10本/mmと30本/mmを分け、その中でS線とM線を見ると整理しやすくなります。
最初に10本/mmで比較的大きな模様のコントラストを見る。
次に30本/mmで細かな模様の再現を見る。
そのうえで、それぞれのS線とM線がどのように動いているかを見るという順番です。
S線とM線そのものの意味は、MTFチャートのサジタル・メリジオナルとは?S線・M線の違いと見方で詳しく解説しています。
S線とM線の間隔を見る
10本/mmまたは30本/mmのS線とM線を見るときには、それぞれの高さに加えて二つの曲線の間隔も確認します。
画面中央ではS線とM線がほぼ同じ位置にあっても、周辺へ向かうにつれて離れていくレンズがあります。
これは、同じ細かさの模様でも方向によって再現性に差が生じていることを示します。
特に画面周辺では、非点収差などの影響によって方向別の描写差が現れることがあります。
そのため、単純に「30本/mmが0.8だから高解像」と一つの数値だけを見るより、S線とM線がそれぞれどの位置を通っているかまで見る方が情報量は増えます。
一方、レンズ購入時にすべての曲線を細かく比較する必要があるわけでもありません。
まず10本/mmと30本/mmの高さ、次に中央から周辺への変化を見て、さらに詳しく知りたいときにS線とM線を見るという順番で十分です。
MTF50のように別の方法で解像力を数値化した結果も併用すると、メーカーMTFとは異なる視点から確認できます。詳しくはMTF50とは?レンズの解像力を数値で比較するときの見方で紹介しています。
30本/mmでは方向差が見えやすい
細かな模様ほどレンズにとって再現が難しくなるため、30本/mmでは10本/mmよりも曲線が低くなったり、周辺でS線とM線の差が大きくなったりすることがあります。
中央では10本/mmも30本/mmも高く、S線とM線もほぼ重なっているのに、周辺へ向かうと30本/mm側だけ大きく分かれるケースもあります。
このようなグラフでは、写真全体の大きな輪郭やコントラストは周辺まで維持しながら、非常に細かな模様については方向による描写差が増えていることを読み取れます。
風景、建築、星景など、画面端まで細かな情報を記録したい撮影では、この部分を見る意味が大きくなります。
一方、背景をぼかすポートレートでは、画面四隅の30本/mmが多少低くても、撮影結果への影響が小さいことがあります。
MTFの数字そのものを目的にするより、実際の撮影用途へ結び付けて見ることが重要です。
レンズを総合的に比較する場合には、レンズの光学性能とは?解像力・MTF・色収差・ボケの見方もあわせて確認できます。
実際のレンズ選びで10本/mmと30本/mmをどう使うか
- ポートレートでは中央から中間部を見る
- 風景では周辺までの30本/mmを見る
- 野鳥では望遠端と中央解像力を見る
ポートレートでは中央から中間部を見る
ポートレート用レンズを見る場合、MTFグラフの四隅だけを重視する必要はありません。
人物の目や顔を配置するのは、画面中央から中間部であることが多いためです。
まず開放付近で中央から中間部の10本/mmが高いかを確認すると、人物の輪郭や立体感を維持しやすい傾向を把握できます。
次に30本/mmを見ることで、目、まつ毛、髪の毛などの細かな部分をどの程度再現できるかを確認します。
明るい単焦点レンズでは、F1.2やF1.4の開放時と、一段または二段絞ったときで性能が大きく変わる場合があります。
購入目的が大きなボケを得ることであれば、F4やF5.6での最高性能より、実際に使う開放付近を見る方が意味があります。
さらにポートレートでは、解像力が高ければ高いほど撮影結果が魅力的になるとは限りません。
ボケ、色収差、逆光時の描写なども写真の印象に関係します。
こうした点まで含めてレンズを比較する方法は、レンズの解像度を比較できるサイト3選 MTFと実写チャートの正しい見方でも紹介しています。
風景では周辺までの30本/mmを見る
風景撮影では、画面中央だけでなく周辺や四隅まで細かな被写体が配置されることがあります。
遠景の山、森林、建物、岩肌などを画面全体へ入れる場合、中央だけが高解像で四隅が大きく低下するレンズでは、拡大したときに差が見えやすくなります。
このため風景用レンズでは、30本/mmが中央から周辺へどのように変化するかを見る意味があります。
開放時に周辺が低くても、F5.6やF8まで絞ることで大きく改善するレンズもあります。
実際に風景撮影で絞って使用するのであれば、開放時だけを見て性能を判断する必要はありません。
また、広角レンズでは画面周辺に光が斜めに入るため、中央と周辺の差が大きくなることがあります。
MTFだけでなく、実写チャートで四隅を確認すると、グラフ上の傾向が実際の写真でどのように見えるか確認できます。
解像力そのものの考え方は、レンズ解像度とは?解像力・シャープネスとの違いと画質を引き出す撮影方法でも詳しく整理しています。
野鳥では望遠端と中央解像力を見る
野鳥撮影では、望遠ズームの最も長い焦点距離を多用することがあります。
100-500mmなら500mm、200-800mmなら800mm付近の性能が実際の撮影へ強く影響します。
鳥を中央付近で捉えて後からトリミングする撮影では、特に中央部の30本/mmが重要になります。
羽毛の細かな模様をどこまで維持できるかを見る材料になるためです。
一方で、10本/mmも無視できません。
羽毛の細部だけでなく、鳥の輪郭や被写体そのものの立体感をはっきり見せるには、低い空間周波数側のコントラストも関係します。
高画素カメラを使用すると、レンズの細部再現性の違いが写真へ現れやすくなることがあります。
そのため望遠レンズを見る場合は、単純な最高MTFだけでなく、実際に使用する焦点距離、画面中央付近、使用するF値という条件をそろえて確認します。
MTF50を使った第三者測定との関係については、MTF50とは?レンズの解像力を数値で比較するときの見方も参考になります。
まとめ
MTF特性図に書かれている10本/mmと30本/mmは、レンズの順位や点数を示している数字ではありません。
1mmあたりにどれくらい細かな明暗パターンを使ってレンズのコントラスト再現性を見るかという、空間周波数を表しています。
10本/mmは比較的低い空間周波数で、写真全体のコントラストやメリハリを見るときの参考になります。
30本/mmはより高い空間周波数で、鳥の羽毛、髪の毛、遠景の枝、細かな文字などのディテールをどこまで再現できるかを見るときの参考になります。
MTFグラフでは、まず10本/mmと30本/mmの曲線の高さを確認します。
次に、画面中央から周辺へ向かって曲線がどのように変化しているかを見ます。
さらに詳しく確認するときには、それぞれのサジタルとメリジオナルの曲線を比較します。
この順番で見ると、複数の線が描かれたMTFグラフでも読みやすくなります。
レンズ選びでは、すべての曲線が最高であることを求める必要はありません。
ポートレートなら中央から中間部、風景なら四隅まで、野鳥なら望遠端の中央部というように、実際に使用する場所の性能を優先して確認します。
10本/mmと30本/mmはどちらか一方を選ぶものではありません。
10本/mmで写真全体のコントラスト傾向を見て、30本/mmで細かな解像力を確認する。
二つを組み合わせることで、レンズがどのような描写を得意としているのかを読み取りやすくなります。



